人及び動物の表情について

チャールズ・ダーウィン

 

訳者序

・全ての先駆的学者がそうであるように彼の立てた表情の原理は完全でなく、さまざまな点で不都合が。ダーウィンは優れた生物学者であったが、心理学者ではなかった。(中略)彼の研究はあらゆる表情研究の出発点であり、基礎であり、足場である。

 

緒論

・神経学者のサー・チャールズ・ベルは1806年に「表情と解剖の哲学」を出版。(人相学ではない)表情の問題を一分科として確定し、体系立てた。

・ギヨーム・デュシェンヌは「人相の機制(Mecanisme de la physionomie Humaine 1862)」を出版。顔面筋の運動を電気によって分析。これらの写真をダーウィンに提供。

○「デュシェンヌスマイル」はこの本では取り上げられていませんが、度々デュシェンヌ博士を引用しており、感慨深いものがありました。

・表情や身振りの研究における手段は大きく5つ。1.幼児を観察する事。2.精神病者の観察。3.デュシェンヌ博士の写真。4.画家や彫刻家の協力。5.異人種の観察。4.に関しては得るもの無し。美が目的のため。

・この研究の開始は1838年。その時から進化の原理、即ち種は他の下等な類型から派生したという原理を信ずる方に傾倒。当時の表情研究における「人間はその感情の表出に適応する筋肉を備えて創造された」という見解に不満。本書の述作を企図した理由。

 

第1章 表情の一般原理

・習慣。鋏を使用しながら両顎を動かす、習字で指を動かす児童は滑稽に舌を歪める、舞台歌手の歌声が嗄れると、観客が咳払いをする、陸上選手が跳躍すると、観客も足を動かす。

○まさにミラーリング!

・網膜上の明るい光がくしゃみを引き起こす場合のように、強く興奮する神経細胞からこれと連絡する細胞に神経力を放射するという考えは、(後略)。

・ハーバート・スペンサーは、情緒(エモーションズ)と感覚(センセーションズ)を明確に区別し、後者を「我々の身体組織によりて発生する」ものとした。氏は、情緒と感覚を共に「感情(フィーリングス)」として分類している。

○フィーリング・コミュニケーションの土台として使わせていただきます!

 

第2章 表情の一般原理(続き)

・ダーウィンの子息、フランシスコ・ダーウィン曰く、「反対の原理」はあまり賛成を得られなかった。

○この第2の原理について訳者は「救いの綱」だと。

 

第3章 表情の一般原理(完結)

・ある動作は、ある心の状態が表出するものだが、この動作は神経系の構造から直接に生起し、最初より意志から独立でまた大部分習慣からも独立であったという。

・心臓は意志の支配を受けない故に習慣的連合により容易に影響を受けるであろう。多少立腹した時やもしくは激怒した時でさえ、その身体の運動は制御することが出来ようが、心臓の急速なる鼓動は防ぐことができない。

・憤怒及び喜悦は本来興奮的情緒で、従ってこれら殊更に憤怒は盛んなる運動を起こさせ、それらが心臓に反応し、その反応が脳髄に反応する。

○全体を通じて思うのが、この時代は心臓の方が脳よりも重きを置かれていたのかな、と。

 

第4章 動物の表情手段

・雄動物が雌を喜ばすために音声を発する時は、その種族の耳に快美な音声をしようする。そして神経系の類似のために同一の音声が、広く種々な動物にも快いことがしばしばある。人間も鳥の囀りや蛙の鳴き声にさえ快感を感じる時がある。

○子供の頃、田んぼのアマガエルの合唱が子守歌でした。人によっては「うるさくて眠れない」ことも(笑)

 

第5章 動物の特殊の表情

○多種の猿たちの「微笑」「笑顔」の様子がほほえましいです。

 

第6章 人間の特殊な表情=苦悩涕泣

・成人特に男性は身体的苦痛による「涕泣」を表現しないようになるが、これは男子が身体的苦痛を外部的徴候に表すことは、弱くて男らしくないと考えられていることから説明できる。未開人は一寸した原因からふんだんに涕泣する。

・水棲動物の習性が陸上的となり、塵埃が眼の中に入りやすくなるや、もし塵埃を払拭しなければ非常な痛みを惹き起こすであろう。そして神経力は隣接の神経細胞に放射するという原理に基づき涙腺は刺激を受けて分泌する。これがしばしば起こり、神経力が慣れた通路を容易に通過するようになると、軽微な刺激でも涙の自由な分泌を惹き起こすに足りる。

 

第7章 気鬱、心配、悲哀、落胆、絶望

・悲哀筋を自由に動かす力は、人間の殆どあらゆる能力の如くに遺伝的らしい。

○俳優一族のある婦人の談だそう。環境による後天的な獲得かもしれませんが、確かに遺伝の面もあるかもしれません。やはり役者にはそういうところが。

・イスラエルの俳優の受賞スピーチ。「神経学者は(ミラーニューロンの)特性をとんでもないものだと思っているが、「私たち俳優」に聞いてみればよかったのだ。私たちはずっと前から、そういう細胞のようなものが自分たちの脳の中にあるに違いないと知っていた―というより「感じていた」ーのだから!」ミラーニューロンの発見

 

第8章 喜悦、上機嫌、情愛、やさしさ、帰依

・過度な音笑の激発後の涙に濡れた人の顔は、激しい号泣発作の後のそれとの間に何らの相違をも指摘することが殆どできない。

・欧羅巴人にあっては、物真似ほど容易に笑いを興させるものは殆どないが、世界中最も別異な民族の一つである豪州の蛮人の同一事実を発見するとは寧ろ奇とすべき。

○エンターテイメントの多くはモノマネかもしれません。

 

第9章 反省、瞑想、不機嫌、不平、決意

・幼い子供は不平を表すに角口(つのくち)を以てする。(中略)欧州人にあっては成年期よりは児童期に明白に表れるところの唯一の表情として注意に値する。しかしあらゆる民族の成人にも、非常な激怒の場合には幾分両唇突起の傾向も。

○幼い頃、よく言われました。「また角口してる」って。こらえようとしたのを思い出します(笑)

 

第10章 憎悪と憤怒

・ある人が他の人を烈しく憎悪することがあっても、その身体組織に影響せぬうちは、その人は怒ったとはいはれぬ。

 

第11章 侮慢、軽蔑、嫌悪、罪過、高慢等、無力、堪忍、肯定と否定

・嫌悪の感は主に「食い」又は「味わう」動作として生ずるものであるから、その表情が主として口の周辺の運動に存することは当然。嫌悪がまた当惑をも惹き起こす時には、大抵顰蹙を伴い、その嫌な物体を突き除け又は、それから身を守るような身振りを伴う。

○内臓頭蓋。~身体心理学~

 

第12章 驚異、驚愕、恐怖、震駭

・我々自身には何らの危険はないが、想像と同情との作用によって、自ら受難者の位置に立ち、恐怖に類したあるものを感ずる。

 

第13章 自己注意ー愧じー羞みーつつましさ(謙退)=赤面

・赤面はあらゆる表情中最も特異にしてかつ最も人間的。(中略)皮膚を擽ることによって音笑を、打撃によって涕泣又は顰蹙を、苦痛の恐怖から戦慄を生ぜせしめる等が可能だが、いかなる物理的手段即ち身体に対するいかなる作用によるも赤面を生ぜせしめることはできない。影響されねばならぬのは精神。

・赤面を生ずる精神状態の性質は、羞恥(はにかみ)、慚愧(はじ)、及び内気。全ての本質的要素は自己注意。

・賞賛よりも叱責や非難を一層鋭敏に感ずる。

○損失回避の法則。「私たちが「損失回避性」と名付けたもので、人は何かを得る時よりも、何かを失う場合の方に強く反応するというものです。実際、この反応は二倍も強いのです。~ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る~

・人は聊か(いささか)の虚偽を語って、悉く恥ずかしと感じても赤面せぬ事があるが、それが発覚したなと感づく場合には、すぐ赤面する。殊に自分の畏敬する人に知られる場合において然り。

 

第14章 結論と概括

・あらゆる種類の動作は、規則的に何らかの精神状態に伴うものとすれば、直に表情的のものとして認められる。

・人間には意識的意志とは別に強い模倣の傾向が存する。脳の炎衝性軟化の初期に極めて異常に示される「反響症状」。どんな馬鹿げた身振り、聞こえるどんな言葉(外国語ですら)でも、意味もわからずして模倣する。

・表情運動は、我々の言葉に鮮活さと力とを与える。言葉には時に虚偽あれど、表情運動は他人の思想や意図を、言葉よりもいっそう正直に表す。

○非言語メッセージの真理。フィーリング・コミュニケーション。

応援クリック、励みになります!

にほんブログ村