若年就業者の組織適応

若年就業者の組織適応

尾形真実哉

第2章 先行研究

・Katz(1980)は、「職務寿命(job longevity)」というフレームワークによって適応を「社会化」「刷新」「適応」の3段階に分類。異なる種類の適応課題を克服しなければと提示。(中略)適応は、個人のパーソナリティと職場環境の外的情報や刺激との均衡が保たれたときに達成。

・尾形(2012a)では、組織への適応を考える場合、知識的側面と感情的側面の双方から捉える必要があると主張。

第3章 リアリティ・ショック

・リアリティ・ショックは「入社前に形成された、期待やイメージが、入社後の現実と異なっていた場合に生じる心理現象で、新入社員の組織コミットメントや組織社会化にネガティブな影響を与えるもの」。

・RJP(realistic job preview:現実的職務情報の事前提供)。自己決定・自己選択を支援するスクリーニング効果、組織での現実に伴う幻滅感を和らげるワクチン効果、組織への愛着や一体感を高めるコミットメント効果、入社後の役割期待を明確かつ現実的なものにする効果(Wanous, 1992)。

第4章 ポジティブ・サプライズ

・リアリティ・ショックとポジティブ・サプライズは表裏一体ではない。

・Herzberg(1966)が提唱したモチベーションの二要因理論(動機づけー衛生要因理論)。従業員の不満足を解消するために環境を整備し、モチベーションを高めるために仕事にやりがいや責任を与えることが重要。

・ポジティブ・サプライズに対しては「現状維持」と「期待の抑制」2つの組織的施策が求められる。

・Louis(1980)は、新人が参入経験の本質を理解して組織に入っていくことは、新しい環境への新人の適応を促進することに効果を発揮すると主張。

第5章 見過ごされてきた適応課題

・「過剰な眼差し」は新人に「モニター・ストレス」を感受させてしまうことを把握し、「程よい眼差し」による育成システムや育成風土の構築が重要。

〇なるほど。見すぎるのも考えものだと。ほどほどに。

・誰もが新人に無関心になり、職場の先輩社員の全てが誰かが援助するだろうという意識を持ってしまうと、結局誰も援助しなくなるという傍観者効果(Latane & Darley, 1970)が生じてしまい、新人の組織適応を阻害することに。

〇ここをメンターに支援してもらえると新人さんは助かりますね。

・2年目になった途端、手厚いサポートが途切れてしまう企業が多い。2年目こそ研修の重要性を理解し、「2年目の憂鬱」をいかに乗り越えさせるか。

・組織適応を阻害する3つのリアリティ・ショック(仕事ショック・評価ショック・組織ショック)の全てに上司サポートが、二つに同僚サポートが役割を果たしている。

・同期は傷をなめ合い、不満を口にし合うなどストレス解消役としての効果はあり、それはそれで重要だが、同期サポートはリアリティ・ショックを解消できる存在ではない。

〇吐き出し口があるのは重要ですね。

第7章 リアリティ・ショックへの実践的対処

・尾形(2007a)では、リアリティ・ショックを克服しようとする行動が、新人に「学習促進効果」「ネットワーク広範化効果」「覚醒効果」のようなポジティブな効果を生み出すことを示している。

第8章 組織適応エージェント

・①予期的社会化の重要性、②同僚の重要性、③情報の信頼性の重要性、④ジャスト・イン・タイムのサポートの重要性。

第9章 プロアクティブ行動

・実践的含意は企業と若年ホワイトカラー双方に。新人研修にて、「プロアクティブ行動」を明確に説明し、理解させ、積極的に行動を取らせることで適応を促進させることが可能。同時に配属先にもプロアクティブ行動の重要性を伝えることも重要。

第10章 プロアクティブ行動を喚起する要因

・上司が有益なフィードバックを提供することで、若年ホワイトカラーはさらに上司からフィードバックを得たいというモチベーションが高まり、フィードバック探索行動を誘発するという「ポジティブ・スパイラル」が存在していると考えられる。

第11章 組織適応に影響を与える環境要因

・若年ホワイトカラーの組織適応状態に影響を及ぼす環境要因は、個人の属性(性別や出身学部)、会社が携わる業種などによって、その影響力が異なることが考えられる。

・企業側が自社に就職を希望する学生がどのような職業志向性(人間関係志向・職務挑戦志向)を抱いているかを理解することで、リアリティ・ショックの抑制につながる(尾形,2011)。

・尾形(2017c)では、知覚された組織的支援(perceived organizational support:POS)の観点から、新人に対する研修は、仕事に関するスキルを習得させる効果よりも、組織への愛着を高めさせたり、離職意思を低減したりする効果の方が強いことを実証。

第12章 結論と提言

・新人を配属しようとしている職場に、新人を潰すような上司や同僚がいないかを人事部側が見極めることが重要。

・若年ホワイトカラーに人事から研修を施したとしても、その効果はわずか1割。上司を育成し、上司を育成上手にすることで、後は現場でのOJTに任せることが9割の効果を生み出す。

・若年ホワイトカラーを定着させ、成長させるためには、上司を育てることが「若年ホワイトカラーの組織への定着」を研究してきて辿り着いた結論の一つ。

補論 組織社会科研究を俯瞰する

・高橋(1993)は多くの社会化に関する文献をレビューし、共通的な見解として①成員性の取得②学習の過程③他者との相互作用を通じてパーソナリティを社会体系に結び付ける過程、と集約。「組織への参入者が組織の一員となるために、組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程」と定義。

・組織社会科の度が過ぎると「過剰社会化(oversocialzation)」(Wrong,1961)というネガティブな結果に。(中略)意図的に促進すれば、それは「洗脳(brainwashing)」を引き起こす社会化戦術と言える。

心をあやつる男たち

・Fisher(1986)のレビュー論文の意義の一つ、「現在まで組織社会科研究にはそれほど進展がない」。

・組織社会科研究の俯瞰にて分かったこと2つ。一つ目は、社会化エージェント・社会化戦術・プロアクティブ行動など、研究の幹となる部分のテーマについてはある程度理解は高まった状況。二つ目は環境の重要性。社会化資源理論(socialzation resources theory:SRT)<新人が仕事、役割、職場、組織に円滑に適応するために求められる資源に焦点>も提示。

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