【株式会社タニタハウジングウェア】谷田泰さん

板橋区の起業家インタビュー、第19回目は「株式会社タニタハウジングウェア」代表取締役社長の谷田泰さんにお話を伺いました。

第17回目の「スムスビ一級建築士事務所」の野口さんからのご紹介。野口さんから、「明日、谷田社長とランチをするのですが、林さんどうですか?」と、たまたま運よく空いていたので、これ幸いとばかりに二つ返事で了解し、食事後にインタビューのアポイントをいただきました。

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-家業を継いだ経歴を教えてください。

谷田さん:大げさに言うと「血筋」を小さい頃から感じていました。小学生の頃、当時の「タニタ」ではライターを作っていたのですが、その頃書いた作文に、「『タニタ』に負けないライターを作る」と書いていたのを覚えています。

谷田さん:生家は常盤台ですが、周囲に「谷田」の表札が10件ほどあるんです。珍しい苗字なのに、「たくさんある」ということで、言葉にはしなくても、「タニタなんだ」という思いはあったと思います。

-「家業を継ぐ」という思いはあったのですか。

谷田さん:大学生の頃、先代の父と話し合いました。「継いでも継がなくてもどちらでも良いけど、継ぐ権利はある。だけど、周囲におまえより優秀な人がいるのであれば、その人に任せればよい」と言われ、気が楽になった部分はあります。父のようにはなれないけれど、自分でできることをやろうと思いました。その上で、いつかは戻ることを前提に、住友林業に就職しました。

谷田さん:住友林業には9年間お世話になりました。1996年の3月で退社し、31才でタニタハウジングウェアに入社。もうちょっと早く戻ってもよかったかも、とは思いますが、とても良い経験を積ませてもらうことができ、感謝しています。

-なぜ、住友林業を選んだのですか。

谷田さん:家業に貢献するためにどこへいけば良いのかと考えた時、「住宅営業」だと思い、まずは大学の就職相談所に相談しました。ですが、住宅メーカーの営業なんて、そんなに良いところではないよ、と言われたんです。もちろん、私のためを思って言ってくれたのでしょうが、正直、頼りにならないなと感じ、自分で探しはじめました。

谷田さん:タニタハウジングウェアで手掛けている銅製の雨といを使用しているのは、高級住宅が多いと考え、それなら住友林業だろうと、入社試験を受けました。

谷田さん:住友林業はいわゆる高級住宅を扱います。9年間で100棟ちょっと、お客さまに提供しました。ですが、実は私が手掛けた100棟ほどのうち、銅の雨といは2棟だけだったんです。他はすべて塩ビ製。当時、雨といのことを気にかけるお客さんはほとんどいませんでした。屋根や壁は気にしますが、雨といはメーカーが勧めるがままというのがほとんどです。

-銅製の雨といを使ってもらいたい、という気持ちはなかったのですか。

谷田さん:いえいえ。そもそも銅の雨どいは塩ビより30万ほど高値です。30万円あれば、お客さまにとって魅力的な内装や他の設備の提案ができます。住宅営業は月に1棟売れるかどうかという商売なので、そこで銅の雨といをこちらから勧めるというのはありませんでした。とはいっても、「ウチの雨といは、どこで使われているのだろうか?」という疑問は心の片隅にありましたね。

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-先ほど、「もう少し早く戻ってもよかったかも」というお話がありました。何か戻ることを後押しするようなことはあったのですか。

谷田さん:毎年お正月には、親族が実家に集まっていたんですが、叔父の大輔(タニタ2代目社長)に、毎年「いつ家業に戻るんだ」と言われていたんです。直接のきっかけではないかもしれませんが、いつもその言葉を聞いているうちに、心の中で期が熟したのかもしれません。

-住友林業を辞職するのはスムーズでしたか。

谷田さん:そもそも入社したころから、この子はいつか戻るんだろうな、という風に見てくれているのは感じていました。ですから、温かく送り出してくれたと思っています。

-戻らない、という選択肢を考えたことはありますか。

谷田さん:それはないですが、今思うと、もしかしたら、そのまま残って出世すれば、今よりも収入はあったかもな、と思うことはありますね(笑)。

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-タニタハウジングウェアに戻られた初期、周囲の目を意識することはありましたか。

谷田さん:周囲が「三代目」という目で見るのは当然だという思いでしたが、「次期社長が来たな」と値踏みされているというところもあったと思います。もちろん、歓迎の声もありましたし、そして「お手並み拝見」という方もいたと思います。ある年上の社員に食事に誘われ、「今後、三代目として、どうしていくんだ」などと質問されることもありました。

谷田さん:良くも悪くも、ウチは「谷田家」の会社です。周囲の社員も、優秀な人もたくさんいましたが、自分で社長になろうという気持ちを持った人はいなかったのではないでしょうか。その分、戻るからには決意を新たにして頑張ろう、という気概を持つことができたと思います。

谷田さん:いつかは社長になるために、という思いから、ドラッカーマネジメントの実践型研修を受講しました。1年間かけてじっくりと学ばせていただきました。「使命・顧客・価値・成果・計画」の5つの質問について常に考え続けた1年でした。

-「経営者に贈る5つの質問」ですね。

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谷田さん:38才で社長に就任しました。最初に考えたのは、「新しいことを手掛けよう」ということ。先代社長から「30年」若返ったんですから。そのために、まずは3カ月ほどかけて、東北から九州まで、お客さまである問屋さん販売店さんに代替わりの挨拶行脚に出かけたんです。未来の話ができると思って意気揚々と出かけたのですが、お客さまの口から出るのは過去の話ばかりでした。正直残念だったことを覚えています。

谷田さん:ドラッカーの学びから、「流通からは新たな価値は生まれないのではないか?」と考えました。我々のお客さまは住宅メーカーではない。お客さまは、家のことを考えている工務店や建築家。そして、その先にいる川下のお客さまのために何ができるのか。そうした時、ふと降りてきたのが「雨のみちをデザインする」だったんです。お客さまに、雨といから得られる価値を提供したいと思ったんです。

-今年創業75周年を迎えるに当たり作成された「Concept Story」、拝見させていただきました。正に「価値」なんですね。

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-社長就任後、大変だったことがあったんですね。

谷田さん:一番つらかったのは、売上下降によるリストラでした。覚悟がない人は辞めてくれ、と。ああいうことは二度とやりたくはありませんが、覚悟が決まった時期でした。

谷田さん:リストラが決まった東京勤務の社員と共に、最後にお別れ会を行いました。10人ほどでしょうか。きつく言ってくる人もいましたが、それも受け止める覚悟の上での食事会です。ただ、若い人の中には「ここで得た経験を次に活かす」と言ってくれた人がいたのは救いでしたね。

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-育成についてのお考えを教えてください。

谷田さん:今手掛けているのは、次の経営チームづくりです。先ほどのドラッカーマネジメント研修を一緒に受けていた私より10年年長の常務から、次世代への引継ぎが始まっています。また、部長たちも全員年下となり、1対1の面談を毎月行って、しっかりと意見を聴くように心がけています。

-社長と直接話せるというのは、中小企業の醍醐味だと感じています。

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ー谷田さんが思う「自律型人材」とはどのようなものでしょう。

谷田さん:祖父の座右の銘に「人生万事己因(じんせいばんじおのれがもと)」というものがあります。未来を面白くするのは自分。人のせいにしても、未来は変えられませんし、他人は変えられません。正に、自律型人材を表していると思います。「人生万事己因」は、従兄弟の谷田千里さんも大切にしています。

谷田さん:指示待ちな人は、変えること・変わることに抵抗を持ってしまうかもしれませんね。我々上の者ができることは、心理的安全性を確保した上で、対話すること。上下の対話ではなく、同じ目線で。そのためにも、上の人は聴くことを大事にしないといけません。我々の世代はそうやってはもらえなかった世代ですが、それをやっていかないといけないと思います。

谷田さん:自律する上で、会社にいる以上は会社の方向性を違えることはいけませんが、同じ方向を向いていればいいんです。会社はこう進んでいるよ、ということを大事にしたうえで、それを忘れなければ、会社の方向性を踏まえた上でできることはいっぱいあります。

-企業内起業家のヒントにもなりますね。

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-最後に、これから起業を目指す若者にメッセージをお願いします。

谷田さん:良くある話ですが、チャンスの女神は後ろ髪がないと言いますよね。「わっ、来た!」と思ったときに、すぐにやれるかどうか。何故やらなかったのか、と後悔するより、「やったもん勝ちだよ」と伝えたいですね。

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「対話型OJT」を献本させていただきました。

(サインまでさせていただいちゃって(〃´∪`〃)ゞ)

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インタビュアーの林(ラーンフォレスト合同会社 代表社員)は、上記の「対話型OJT」をもとにした、新人の適応を促す「上手な仕事の教え方」を研修にてお伝えしています。

ジーンズをさっそうと履きこなすスタイリッシュな谷田泰さん。「女性の眉毛のように表情をより美しくするような雨といを提供する」という、ドラッカーの「価値の提供」が、谷田さんの血肉になっているのだと強く感じるインタビューの時間でした。

谷田さん、どうもありがとうございました!

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