経営学習論 増補新装版

経営学習論

中原淳

〇10年を経て増補新装版。「リーダーシップ開発」。

第3章 組織社会化

・組織社会化とは「時系列的変化」を理論的射程に含む「プロセス(process)概念」。細分化したプロセスとして「予期プロセス」「接触プロセス」「適応プロセス」「安定プロセス」。

・本書における組織社会化の定義は高橋(1993)の定義「組織社会化とは、組織への参入者が組織の一員になるために、組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程」を用いる。

・既存の組織メンバーにとって「自明なこと」は、今、組織に参入してきた個人にとっては何一つ自明ではない。一方、すでに組織に同化している他の組織メンバーは「文化的無自覚性」の中にいるため、その事実に対して意識的ではない。

○だからともするとイライラしてしまう・・・。

第4章 経験学習

・ボルノー(Bollnow 1980)は「経験」の概念を語学的に探究し、1.「旅」「遍歴」「彷徨」、2.「苦痛」「忍耐」、3.「賭け」の3種類の異なる位相の交点に見いだす。

○師匠が良く言っている「Hard Fun(楽苦しい)」でしょうか。

・哲学者の中村雄二郎は「ひとは経験によって学ぶとは世界中のあらゆる場所において見出される格言」だと指摘(中村 1992)。

・循環学習論において、いずれにせよ、この種のサイクルを構成する要素には、行為と内省という2軸が含まれ、それらを基軸として学習が進められる。行為と内省は経験学習にとってのロバスト(強固)な2軸。

・内省的観察とは、1.未来志向性、2.相互作用性という2つの特徴を持つ認知的機構と考えられている。(中略)アクションとリフレクションの循環こそが内省的観察の目指すべきもの。

・「相互作用性」とは、内省的観察は他者との相互作用の中に埋め込まれて、実現するものだと考えられている(Woerkom 2003)。

・自己だけで完結しない内省のあり方。中原・金井(2009)において「他者に開かれた内省」「他者との対話の中に埋め込まれた内省」の重要性が指摘されている。

・「内省的観察・抽象的概念化なしの能動的実験や具体的経験」は、這い回る経験主義に堕する傾向。(中略)「行動・経験と内省の弁証法的な関係」をいかに模索するかが重要(H0̸yrup 2004, Marsick & Watkins 1990)。

○胸が詰まります。学びは奪われない。

・仕事説明。仕事の背景情報が理解できない限り、部下にとってストレッチとは「過剰な負荷」に意味づけられる可能性。内省の駆動のための「出来事を描写すること」も欠かせない。出来事の周辺的情報を理解する事が重要。

○「いいからやれ!」ではなく。

・「能動的実験⇒具体的経験」「具体的経験⇒内省的観察」「内省的観察⇒抽象的概念化」「抽象的概念化⇒能動的実験」の各要素間の循環に関するパスは有意な結果が得られている。

第5章 職場学習

・本書では職場学習を「組織の目標達成・生産性向上に資する、職場に埋め込まれた様々なリソースによって生起する学習」と位置付け。

・「個人が独力で達成できる水準と、他者の支援があれば達成可能な水準との差・発達の可能性」を指す「最近接発達領域(Zone proximal development)という概念(Vygotsky 1970)。個人はより有能な他者が提供してくれる支援や助言を(精神間)、自分自身で段階的に自ら課すようになることで(精神内)、当初は他者の助けなしでは実現できなかったことを独力で実行できるようになるプロセス(内化)。

・1.上司による「精神支援」と「内省支援」、2.上位者・先輩によって担われる「内省支援」、3.同僚・同期によって担われる「業務支援」「内省支援」が、本人の「能力向上」に正の影響。

・社会関係資本とは、人文社会科学においては経済資本、文化資本に加えた「第三の資本」として定義づけ(Bourdieu 1986, Bourdieu & Passeron 1991)。信頼感や規範意識、ネットワークなど、社会組織のうち集合行為を可能にし、社会全体の効率を高めるもの(Putnam 2006)。信頼と互酬性規範。

・私達の働く現場はコミュニケーションに満ちている。現状では、労働時間の約70%をコミュニケーションに費やしているという報告も(Robbins 2009)。

○リモート環境になってきた今日でも、やはり求められるのでしょう。新しいコミュニケーションが求められていますね。ニューノーマル。

・職場の中で何気なく交わされている成功経験・失敗経験の語りは、学習にとってはポジティブな影響。信頼感を相互に感じられる組織であるほどその効果は高くなる。

・他者が行う教育的な方向付けや働きかけであるスキャフォルディング(Scaffolding:足場架け Wood, Bruner & Ross 1976)は、フェイディング(Fading:支援解除 Collins, Brown & Newman 1989)とセットで問われる。依存を生み出さないために。

第6章 組織再社会化

・中途採用者の社会化が高く実施されているほど、彼彼女らが組織内において革新行動を担う傾向。「業務に関連の深い内容」は短時間で学習できるが、「組織全体に関する内容」については長時間かかることが明らかに(鴻巣・小泉・西村 2011)。

○新しい風が吹く!

・学習棄却(Unlearning)の必要性。組織社会化論研究者のLouis(1980)によると、組織参入時の役割剥奪には2種類。古い役割を一気に捨て去るプロセス(Tabula rasa process)と、徐々に古い役割を脱ぎ捨てるプロセス(Event-anniversary process)。

○一気に、は辛い。

第7章 越境学習

・同じ組織に長くいることによる「過剰適応の罠」や「能動的惰性」に捉われる可能性。過剰適応⇒文化的無自覚⇒能動的惰性。組織は次第に硬直化し、イノベーションを生み出す素地を喪失。

第8章 今後の研究課題

・「探求を止めてはならない。探求の終わりには、始めの場所に戻るだろう。そして初めて、あなたは、その場所の意味を知ることになる」(Elliot, T. S.)。

○今後の課題としての、グローバル化、ダイバーシティに加え、リモート化が付け加わりました。時代は光の如く。

補章 リーダーシップ開発

・組織ではリーダーの管理手法やリーダーシップのクオリティへの関心が高まる。それらの能力発揮の程度が、標準偏差一つ分向上するごとに、従業員一人当たりのパフォーマンスが1万8千ドル高まることを指摘する研究も(Pfefer & Veiga 1999).

〇数字は説得力が増しますね。

・ピーター・G・ノースハウスは、リーダーシップという概念の共通項を提示。リーダーシップは「プロセス」であり「チームの中で起こるもの」であり「(チームメンバー間の)影響力を内包する概念」であり「メンバー間に共有される目的を達成するもの」である(Northouse 2016)。本章では「リーダーシップとは、集団の目的を達成するため、個々の成員が相互に影響を与え合うプロセス」と定義。

・「リーダー開発」と「リーダーシップ開発(発達)」前者はリーダー個人の能力やスキルを発達させたり、セルフアウェアネス(自己認識)やアイデンティティを高めたりするなど、リーダー個人の内部要因を探求・開発しようとする働きかけ。後者は、リーダー個人がフォロワーやリーダー以外の他者に対する働きかけを含め、社会的プロセスを探求・開発・促進しようとする。

・リーダーの内的要因は、リーダー個人が非意図的におのずと「成長」していく側面(発達)と、外的働きかけによって「開発」されていく側面(開発)が混在。Leader Developmentを「リーダー開発(発達)と訳出。

・リーダーとフォロワーの間に「開放性」「透明性」「相互信頼」の基づく関係が樹立されている時、フォロワーはリーダーを信頼し、安定的なパフォーマンスを発揮する(Gardner et al. 2005)。オーセンティックリーダーシップ開発は、リーダーとフォロワー間の関係を向上させることを目指す。

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