心理劇入門:理論と実践から学ぶ

心理劇入門:理論と実践から学ぶ

土屋明美・茨木博子・吉川晴美:編著

はじめに

・本書では「心理劇は、サイコドラマ、ロール・プレイング、ソシオドラマ、プレイバックシアター等、即興的技法やアクションメソッドを用いて行う治療的、教育的集団技法の総称である」との定義に基づき、様々な方法を一括して「心理劇」と表記。

第1章 心理劇とは何か

・モレノは、演じること、そのこと自体に人間的成長の可能性を見出し、それを心理劇として体系化し、誰でもが自分の人生の主人公になれる舞台を創るに至る。

・従来、対象を認知しない自閉症は心理劇どころかカウンセリングさえ困難と考えられていたが、心理劇的アプローチはそれを可能にすることが証明されつつある。

・心理劇は「言語」だけではなく身振りやアクションといった「非言語」を用いて自己表現するため、自分の抱えている問題が表出されやすい。

・多くの人間の精神病理、社会病理は自発性が十分に発達していないところにあるとして「自発性の訓練」の必要性を説き、(後略)。

第2章 心理劇の基礎理論

・「ごっこ遊び」は、現実から守られた空間で、即興で役割を自由に演じていく。この営みにより、子供は他者の心を理解する気持ちを育み、他者との関係性を深め広げていく人間関係を学ぶ。モレノは「ごっこ遊び」の発想から、自らの演劇活動と医学、医療を結び付け理論化し、「人間関係の探求に必要な道具」として心理劇を確立。

・自発性とは、「新しい状況に対して適切な応答をすること、また古い状況に対して新しい応答をすること」。換言すれば、状況に応じて適切な役割を即興的、創造的に演じること。

・人間の文化が自発性の発達を阻害する。(中略)自発性、創造性が作る文化によって生活は豊かになるが、人間は自由を失い、自発性は文化的遺産という缶詰の中で身動きができなくなる。

・心理劇を心理治療として用いる時、主役(患者)に与えられる役割は、主役が自発的に演じることができなくなった役割。機械的に過去の役割を反復するロール・テイキングを、役割創造につながるロール・プレイングに変えることが心理治療の目標。

・現実には経験することも見ることも不可能だが、「余剰現実」では可能になる。実際に悲劇を体験しなくても済むように余剰現実で新しい生き方をやってみる、変化を体験してみることが重要で治療的。

・心理劇の舞台は、余剰現実として演者(主役と補助自我)と観客によって、不可能を含め何でも起こりうる空間。

・サイコドラマは「過去に戻ることが多い」と批判を受けるが、心はしばしば過去の亡霊(思い出)引きずられており、モレノは「文化的保続」と名付けて、自発性の低下した状態と捉える。自発性を開放することがサイコドラマにの目的であれば過去を目指さざるを得ない。

・三つの技法「ダブル(二重自我法)」「ミラー(鏡映法)」「ロール・リバーサル(役割交換)」を乳幼児期の発達の三段階になぞらえ、ダブルを同一性の段階、ミラーを自己認識の段階、ロール・リバーサルを他者認識の段階としている。

・モレノは「役割の交換によって他者の立場から目で見たり、口で話したり、物事を他人の立場から感じて初めて自己と他者との出会いが生まれる」と指摘。

・「未来投影(future projection)」は、主役が自分の身に将来起こると考える場面や自分の創造する未来の姿を取り上げて、実際に演じる技法。夢(将来の夢、なりたい未来)を舞台に上げることで、その夢に向かう勇気を人々に与える技法。

第3章 教育・福祉の現場における心理劇

・役割演技の活用目的の達成のためには、演じる場面や演者を吟味し、演じた後の話し合いで演じた意味を明確化することが大切。

・コルシニ(Corsini, R.J.)曰く、「ロール・プレイングは思考・感情・行動の3要素が同時に働き、全体的包括を創造するので、心理学的には、現実的経験になりうる」。

・役割演技は用い方によっては重大な弊害が生じることも十分理解し、効果的活用を心がけることが肝要。

〇戻ってこられるように。

・松村康平曰く、心理劇における対人関係の発展の担い手(役割)としての役割体験の重要性として「(心理劇の狙いは)今、ここで新しくふるまうことが重視され、自発的、創造的にふるまうことのできる人間関係が目指される」。

第4章 心理・社会的支援の心理劇

・エリクソン(Erilson, E.H.; 1902-1994)は、人間の「発達課題」という概念を提示。年齢にふさわしい発達課題があり、それを達成することが「健康」。

・モレノと出会って心理劇を日本で始めた松村康平は、「満点から始める」心理劇を重視。「つけるなら自分にも満点を、他の人にも満点をつけて、いま・ここで・新しく満点から始める」とし、「変な人はいない」「失敗はない」と教え続けた。心理劇の時空で共に生きる創造的な人間関係を探求。

・(※心理劇を通じて)問題となっている状況の関係構造が見えてくると、悩みは目標や希望に転化。問題は関係的に起こり、個人一人だけの問題ではなく、自身だけの問題にせず、周りの眼差しに圧倒されず、すべてを受け入れ前に進むことが重要。

第5章 精神科医の現場における心理劇

・成人発達障害者は、感情に蓋をすることができたおかげで大人になるまで適応的な行動をとり続けてこられたがために対人交流が減少してもいる。

・成人発達障害は、発達できないという障害なのではなく、発達がゆっくり進む障害。十分な時間を与えてあげることにより発達・成長は続く。

・心理劇を始める前に監督は、参加者に「心理劇とは何か(即興劇を用いた集団心理療法)」「何のためにやるのか(自発性の向上、相互理解と人間関係の改善)」「約束事があること(ここでのやり取りは他言しない)」を説明し、目的意識をもって安心して参加できるように努める。

・治療者側も、シナリオのない即興劇は患者に不安を喚起させ、傷つけてしまうのではと恐れ「心理劇は難しい」と言ってこのユニークな治療方法を敬遠する傾向。

・「主役中心の全員参加型心理劇」は主役のためだけにあるのではなく、主役のお役に立てたこと即ち「愛他主義」に喜ぶ補助自我のためでもある。

・モレノの心理劇がアクションに重きを置いているように、森田療法でも行動が重要。不安は当然あるものとして(不安を取り去ろうと努力をすることが症状を固定化してしまうので)、不安のままに行動が取れればよい。

・「増野式サイコドラマ」は、最初の話し合いでいろいろな不安が語られても、それはそのままにして課題にはせず、ドラマの段階では切り替えて、自分の楽しい体験をドラマに。(中略)森田療法の「治そうとしない」態度をヒントに。クライエントのポジティブな側面を強化。

〇加点法がやはり良いなと思えますね。欠点は仲間で補えればよし。

第6章 対人援助職者養成のための心理劇

・心理劇を通して多様な関係体験を重ねることは、長い実践経験を通して得られる経験値が重要であるといった見方を超えることにつながる。

〇演劇に限らず、アートの力はここにありますね。

・(※監督体験は)「今、ここで」どう動くことが、状況や参加している人たちとの関係に発展をもたらすかを洞察する「関係洞察」 の力は、心理劇の中で経験しながら育てていくことができる。

・補助自我体験を重ねることは臨床場面に起きてくることを洞察し、「今、ここ」の相談者とカウンセラーと、そこに成立する課題の三者関係を未来思考的に発展させていく力の形成に役立つ。

・心理劇は現実とは異なり、失敗も問題ではなく、むしろうまくいかなさを感じつつその体験から学び、徐々に役割を楽しめるようになっていく。役割取得から役割演技、さらに役割創技へというプロセスから多くを得ることができる。

〇そう、失敗たくさんしてほしいです。失敗は成功の母。ここでの失敗は誰も傷つきません。

・「クライエントの身になって」を掲げる医療従事者や心理支援者が、クライエントの人格を全人的にとらえ、病理的側面だけでなく健全で肯定的な側面にも積極的に焦点を合わせることができれば、クライエントの成長や治療にだけでなく、広く周りの人々とのよりよい関係づくりの本質をつかめる。

・「演劇における役は、人を保護すると同時に開放する」(R. エムナー、2007)。象徴を使うことで、安全に、より豊かな表現や新たな提案ができる。

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