SQ 生き方の知能指数
SQ 生き方の知能指数
ダニエル・ゴールマン
第1章 感情のプラス・マイナス
・他人の表情。ある実験では、楽しそうな表情の写真を見ただけで被験者の口もとに笑みを作る筋肉がかすかに反応。悲しみや嫌悪や喜びなど強い表情を浮かべた顔を見るたびに、私たちの顔の筋肉は自動的にその表情を反映するように変化しはじめる。(中略)こうした模倣は身体レベルにも影響をもたらす。顔に浮かべた表情が引き金となって心にそうした感情が浮かぶ。
・人間の神経系はほんの小さな感情の動きまですべて顔の筋肉に伝えるようにつなっがており、感情はすぐに顔に出てしまう。これは自動的かつ無意識的な反応で、抑制するには意識的な努力が必要となる。
・表情筋をコントロールするのは「裏の道」、嘘を考えるのは「表の道」の働き。
・夫婦げんかのビデオを被験者に。視聴中の被験者たちの生理機能を測定したところ、その数値は言い争いをしている夫婦の数値と同様の変化を示した。被験者の数値がビデオの夫婦の数値に似ているほど、感情の推測結果は正確だった。(中略)被験者の中では、感情がはっきりと表情に出た人ほど他者の感情を正確に捉えていた。
第2章 ラポールの秘訣
・ラポール。三つの要素が伴うことをロバート・ローゼンタールが発見。お互いに対する心の傾注、肯定的な感情の共有、非言語的動作の同調性。この三要素がそろったときにラポールが生まれる。
・人間同士の同調。神経科学における「オシレーター」と呼ばれる働き。自分の脳内におけるニューロンの信号発射リズムを外から入ってくる信号の周期に同調させるようリセットを繰り返す神経の働き。
第3章 ミラーニューロン
・人間の脳には物まね以外にも様々な機能を持つミラー・ニューロンがあり、意図を読み取る。実験にて笑ったり顔をしかめたりしているビデオを見せると、被験者の脳内で活性化した部分の大半は、ビデオの中の人たちの脳の活性化パターンと同じだった。
第4章 思いやりは人間の本性
・ロシアの演技指導者コンスタンチン・スタニスラフスキは、役になりきっている俳優は過去の感情記憶を呼び起こして現在に強力な感情を喚起することができ、こうした記憶は自分自身の経験に基づくものである必要はなく、共感を働かせて他人の感情を利用することもできると指摘。
・神経科学者たちは、ミラーニューロンの働きが活発な人ほど共感も強いと指摘。
・ミラーリング(鏡映)は、相手の動作や表現が知覚され、それが自動的に自分の脳内にイメージや感覚を喚起したときに起こる。相手の心的状態が自分の脳内にも入ってくるということ。
第5章 キスの神経解剖学
・衝動にブレーキをかける能力。眼窩前頭皮質には、御しがたい情動の源である扁桃体を「上位下達」式で抑制する働きがある。
・「表の道」とつながっている限り、扁桃体が脳の中で問題を起こすことはない。眼窩前頭皮質には扁桃体が喚起した情動の波を制止できるニューロンが配置されており、大脳辺縁系の衝動を却下できるようになっている。
・最初の選択肢を提示するのは「裏の道」だが、最終的に行き先を決めるのは「表の道」。
○心の持ちよう。
・人間の記憶は常に部分的な改造を積み重ねており、記憶を呼び出すたびに脳はそれまでの記憶内容をその時点での関心や理解に基づいて部分的に書き換え更新している。記憶を呼び出すことは記憶が「再固定」されることだとジョゼフ・ルドゥーは説明。更新した記憶を新たに保存するために新しくたんぱく質が合成され、化学的に少し変化したものになる。
・認知療法士と患者の治療過程。話し合うこと自体が脳の記憶を変えていく。人間は「表の道」を使って「裏の道」を修正するようにできている。
○嫌な記憶も時が解決してくれる。その手助けになるのが「共感」でしょうか。
第6章 社会的意識
・社会的知性は大きく二つに分類。「社会的意識」(他人について何を感じ取れるか)と、「社会的才覚」(その上でどう動くか)。
・社会的意識【原共感・情動チューニング・共感的正確性・社会的認知能力】。
・社会的才覚【同調性・自己表現能力・影響力・関心】。
・同調性のお陰で人間は他者との非言語的関係にうまく対処できる。(中略)同調性を司るのは「オシレータ―」や「ミラーニューロン」と同じく「裏の道」の神経。同調するためには双方が非言語的ヒントを即座に読み取って、円滑に反応できなければならない。
第7章 「汝」と「それ」
・哲学者マルティン・ブーバーが「我ーそれ」と呼んだ人間関係。相手の主観的現実に対する情動チューニングは皆無で、真の共感もない。単に思いやりの薄い人間関係から完全な搾取的人間関係までを幅広く含む。こうした関係においては、相手は人というよりモノ、単なる客体に過ぎない。
・心理学における「達成動機」。相手を自分の目標達成に必要な道具としてしか見ていない関係。対照的に、相互に強い共感で結ばれた「親和動機」。相手の気持ちは自分にとって単に重要である以上に、自分を変える力を持つ。同調しあい、相互にフィードバック・ループで心がつながっている。
・マルティン・ブーバーは哲学書『我と汝』の中で、「我―汝」の関係は特別な絆を表すもので、夫婦、家族、親友などにみられるような互いに波長の合った親密な関係である、と書いている。
・「我ーそれ」の関係においては、相手は別の目的を達成するための手段として使われ、「我ー汝」の場合には、人間関係そのものが目的。「それ」に対応するには理性と認知に優れた「表の道」で十分かもしれないが、「汝」と心の通じ合う関係を作るには「裏の道」の働きが必要。
第8章 ナルシシスト、マキアベリ主義者、反社会的人格障害
・連続殺人犯への面会。「あなたは、どうしてそのような、恐ろしいことが出来たのですか?相手に対する哀れみは感じなかったのですか?」「いや、感じないね。そういう部分はスイッチを切っておく。相手の苦痛を感じたりしていたら、殺しなんて、できるはずないだろう」。
・共感は、人間の残虐行為を止める最大の力。相手の感情を共有するという本来備わった性質を抑え込んでしまえば、他者を「それ」として扱うことが出来るようになる。
○スイッチを切る。このスイッチを切ることが出来る人がいるという事実。
・ナルシシスト―栄光の夢、マキアベリ主義者ー目的は手段を正当化する、反社会的人格障害者ー他者は「それ」。
第10章 遺伝がすべてではない
・同一遺伝子の「安定性」に疑問を突きつけた、ジョン・クラブのマウスの実験。遺伝子のみが行動の決定要因であると考えていた研究者たちが驚愕する結果に。怖がりと大胆というバラつき。人間の心理状態をマウスが読むことができ、それがマウスの行動に影響を与えているのかも。
・どんな遺伝子を持って生まれてきたか、だけではなく、それらがどう発現するかも考慮に入れる必要。
・ジョン・クラブの発見は「エピジェネティクス」<後天的要素が(DNA配列は寸分も変化していないにもかかわらず)遺伝子発現に及ぼす影響を研究する学問>に一石。
・マイケル・ミーニーの発見。生後12時間のあいだに母マウスが子マウスをどれくらいかいがいしく舐めて世話するかによって、子マウスの学習能力とストレス耐性を一生にわたって左右する脳内化学物質の生成量が決まる。(中略)母マウスの世話の量は、そのまま子(娘)マウスの子育てに引き継がれる。
○愛情がどれだけ大事か。
・「神経の骨格形成」。いったん脳内の回路が出来上がると、繰り返し使われることによってその結合が強まる。行動パターンを変えるために大きな努力が必要となるのは、神経がこの仕組みで固定されるからだが、チャンスや、努力と意欲さえあれば人間は道を新しく敷いて強化することができる。
第12章 幸福を感じる能力
・遊びに費やされた時間は、神経やシナプスの成長という見返りをもたらす。遊び好きの陽気な雰囲気は一種のカリスマ性を醸し出す。大人も子供も実験用のマウスさえ、遊びの経験が豊富な人の所に集まる。社会脳の中の原始的な部分がこの「裏の道」の神経回路にルーツを持つ。
○よく遊び良く学ぶこと。子育てにもつながります。
第14章 彼の欲望、彼女の欲望
・男性が恋に落ちる時は「裏の道」を真っ逆さまに落ちていく。女性も「裏の道」を通るが、時々「表の道」に戻ることを繰り返している。
・「男は性交する対象を探し、女は成功する対象を探す」。その傾向はあるが、最大の決め手は男女ともに相手の優しさ。
○著者は本当に温かいまなざしで人間を見ています。
第18章 医療現場の思いやり
・1977年の医学雑誌。医師が医療ミスで訴えられるかどうかは、実際の医療ミスよりも、むしろコミュニケーションのまずさによって決まるという事実の紹介。患者との間にラポールを構築出来ている医者ほど訴訟を起こされにくいというデータ。
・医療現場の看護師に対する調査。仕事に関して満たされない想いを強く抱いている看護師ほど使命感を失い、健康状態も悪い、仕事を辞めたいと考える割合も高い。患者から絶望や怒りや不安といった不快なストレスを「もらって」しまうからという研究者たちの見解。
・看護師が患者と建設的な人間関係を持ち、患者の気持ちを明るくするうえで自分が役立っていると感じられるケースでは、看護師自身の心も救われている。
第19章 最高の力が出るスイートスポット
・リーダーの情動傾向の強い影響力。悪いニュースであっても、管理職がそれを温かい表情で伝えると、部下はその時のやり取りを肯定的に受け止める。良いニュースであっても、それを不機嫌な表情で伝えると、部下の心には悪い印象が残る。
・部下は上司との不快なやり取りの方を愉快なやり取りよりずっと鮮烈に記憶し、頻繁に思い出す。
○良いところよりも悪いところが目立つのと一緒ですね。だからこそ、思いやりの心を持って接しないといけません。
付録 「表の道」と「裏の道」
・「裏の道」は自動的に、意識の外で、超スピードで働く。「表の道」は意志による制御を担当し、意識的に何かを行い、比較的遅いスピードで働く。
・「表の道」と「裏の道」という類型を使って説明することにより「認知的⁄情動的」と「制御的/自動的」という二つの次元を「認知的で制御的/自動的で情動的」という一つの次元に単純化することが出来る。
・その気になれば、「表の道」はある程度の範囲内で「裏の道」を抑え込むことが出来る。その能力が、人生における選択を可能にするのである。
○立派な大人になるということ。学び、成長する。
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