組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす
組織開発の探求
中原淳・中村和彦
はじめに
・組織開発には、さまざまな定義があるが、ここでは「組織(チーム)を円滑にwork(機能)させるための意図的な働きかけ(介入)」と定義。
・「多様性」とは「遠心力」。遠心力が働く組織やチームにおいては、それに抗う「求心力」の構築が必要。
第1部 初級編 組織開発を感じる
第1章 組織開発とは何か
・組織開発は風呂敷であり、アンブレラワードである。
第2章 組織開発を”感じる”ための3つの手がかり
・組織開発の世界のカタカナ言葉に翻弄されるべきではない。大切なことや本質的なことはいつもシンプル。
○この、シンプルに相手に伝えることが難しいんですよね。逆にシンプルに伝えられないようでは、自分でも理解していないのかもしれません。
・組織開発の氷山モデル。氷山の上に顕在化している「問題事象」以外に、水面下にある「チームの抱える隠された真因」を可視化することが組織開発の最初。
第2部 プロフェッショナル編(1)組織開発の歴史学
第3章 組織開発を支える哲学的な基盤
・プラグマティズムとは端的に言えば「効果を出しているもの=問題解決ができるものが、正しさを持っている=真実であると見なす」という思想。
・多民族国家アメリカの基調思想、「効果を出しているもの=問題解決ができるもの」という「ゆるさ」や「社会的包摂」のマインドの理論的根幹がプラグマティズム。「唯一絶対の正しさや善」を放棄するのではなく、多文化共生には重要な思想であった。
○多様な意見を受け入れることが組織開発の一つの肝。
・組織開発とは「組織が、組織メンバーの関係性やありようを対象として、組織で行う経験学習」の一種。
・組織開発と人材開発のルーツは一緒。「人はいかに学ぶか」という哲学が共通の基盤。ジョン・デューイの思想。<経験をまず意識化し振り返る>
・エドムント・フッサールの影響を受けた組織開発の価値観、「今-ここ(いま-ここ:here and now)」。「現在起こっている出来事に意識を当て、考えていくことを重視する」価値観。<「今-ここ」の自明性を問うこと>
・ジクムント・フロイト流に述べるのなら、組織開発とは「グループやチーム、そして組織の、ふだんは全員の意識にのぼらない抑圧を、みんなで顕在化させ、意識化し合う行為」。<意識の下にあるような、ふだん見えていないものを問うこと>
・デューイ、フッサール、そしてフロイトの哲学のエッセンスが、組織開発の考え方のベース。
第4章 組織開発につながる2つの集団精神療法
・のちの組織開発につながる、集団精神療法の原型ともいわれる2つの代表的実践、ヤコブ・モレノの創始した心理劇とフレデリック・パールズが始めたゲシュタルト療法。
・フロイトの精神分析と同じく、病理の原因を「過去の抑圧した感情」に求めるが、ゲシュタルト療法は「過去の抑圧」を「<今-ここ>=今、どのように捉えているのか」に固執。フロイトの理論とフッサールの現象学の影響を受けている。
第5章 組織開発を支える経営学的基盤
・フレデリック・テイラーの科学的管理法。ジョージ・エルトン・メイヨーの人間関係論。テイラーは、人は合理的に行動する「経済人」とみなし、メイヨーは、人は連帯的で感情的に行動する「社会人(情緒人)とみなした。
第6章 組織開発の黎明期
・クルト・レヴィンは、Tグループやアクションリサーチなど、組織開発につながるさまざまな重要概念、重要なツールを生み出した。
・レヴィンは、「物事の決定には、より多くの人を巻き込むことで、より決定の質が高くなる」として、「民主的価値」を重んじた。
・「フィードバック」の用語を人文社会科学・行動科学の領域に適用したのがレヴィン。
・レヴィンの組織変革の3段階モデル、「解凍」→「変化(学習)」→「再凍結」。「ブランド・チェンジ」という考え方。
・レンシス・リッカートの提示したリーダーシップ研究の概念、「課題思考」と「関係思考」。「関係思考」が「課題思考」よりも有意な組織において業績成果が高まる。
・組織開発とは「リッカート流のサーベイ・フィードバック」と「レヴィン流のグループダイナミックス。
・組織開発のさまざまな手法のうち、一番効果的なのは「調査→結果のフィードバックーミーティング」という研究(Bowers, D.G. 1973)。
・東海岸発祥のTグループ、西海岸で変質したST(sensitivity training:
感受性訓練)。
○Tはグループ・ダイナミックス、STは個人への働きかけに重きを置いていると。
第3部 プロフェッショナル編(2)組織開発の発展
第7章 組織開発の誕生
・組織開発での「プロセス」の対義語は「結果」ではなく「コンテント(内容)」。グループで話されていることが「コンテント」、グループの中で起こっていることは「グループプロセス」。
・エドガー・シャインは、「コンテント」をwhat、「プロセス」をhowとした。
・「組織開発とは、組織の健全性(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capavilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である」(Warrick 2005, p.172)。
・シャインは自らの経験から、コンサルタントによる支援の型として、①購入型、②医師-患者型、③プロセス・コンサルテーション型を挙げた。
・シャインは初期の取り組みでは、質問紙調査と観察とインタビューを組み合わせることを推奨。
第8章 組織開発の発展
・組織の変革における「ベスト・ウェイ」から、状況によってコンティンジェント(状況依存)に変化するという「コンティンジェンシー理論」への移行。
・診断型組織開発の進め方。(Tschudy, T. N. 2006)。
・ゲシュタルト組織開発の中核の考え方、「経験のゲシュタルト・サイクル」と「ユース・オブ・セルフとプレゼンス」。
○暑い夏にビールを飲むまでのサイクル。わかりやすい!
・コンタクトとは変化であり学習。
・組織開発実践者の姿勢。エドウィン・ネーヴィスは「ユース・オブ・セルフとは、他者に影響を及ぼしていくために、自らの観察、価値観、感情などに基づいて動くこと」(Nevis 1987, p. 125)と定義。価値観は組織開発で重視されている価値観(人間尊重、民主的、クライアント中心)。感情は「今-ここ」で起こっていること。
第9章 日本における組織開発
・日本での組織開発は、アメリカから10年ほど遅れて取り入れられた。
・初めてTグループが日本に導入されたのは、1958年。
・STは1963年にフレッド・マサリック教授が来日して以降、日本のビジネス界に広まった。
・当時、参加者が自殺にまで追い込まれ、社会問題化したことで、「STはだめだ、Tグループは危ない」とSTブームは下火に。
○「心をあやつる男たち」、読んでみました。方向を間違えるとこんなことになる・・・。
・アーヴィン・ヤーロムは、ファシリテーターは支援と内省促進が最も重要であり、「最もよいファシリテーターとは、情緒的刺激と実行を中程度にし、配慮と意味づけを徹底的に行うリーダー」(Yalom, 1995)と結論。
・シャインによる「プロセス・コンサルテーション」の翻訳は「職場ぐるみ訓練」。
第10章 組織開発と「似て非なるもの」の暴走
・組織開発はパワフルだが、間違って用いられると大きなリスクや危険を個人や組織にもたらす。なぜなら、組織開発が「集団精神療法」の影響を受けて発展してきた歴史的事実にある。
・「組織開発=ST」や「組織開発≒自己啓発セミナー」との捉えられ方。
○マルチ商法やオカルト商法もこの考えの流れのなかに。
第11章 組織開発の復活-組織開発の見直しと対話型組織開発の広がり
・ロバート・マーシャクが挙げる組織開発の価値観4つ、①人間尊重の価値、②民主的な価値観、③クライアント中心の価値観、④社会・生命的システム指向の価値観。
・対話型組織開発のベースには社会構成主義の考え方がある。社会構成主義とは、物事の意味や未来の構造というのは、科学的な手法によって顕在化した客観的な事実によってつくられるのではなく、当事者同士たちのコミュニケーションをする中で社会的に作られるのだという考え方。
・対話型組織開発の進め方。
・対話型、組織型、どちらが優れているかという議論には意味がないかもしれない。ただ、実践する専門家は、両方の思想的基盤の違いに自覚的でいる必要がある。「組織開発は(実践者)のマインドセットが重要である」(Bushe & Marshak 2015)。
第4部 実践編 組織開発ケーススタディ
第5部 対談 「組織開発の未来」
・一番大事なのは、組織開発も人的資源開発も同じで、今その現場で何が起こっているのかを探求し、見える化していく企画の部分や調査の部分。それが8割ではないでしょうか。
・組織開発はある意味「漢方薬による体質改善」みたいなものだから。効き目はゆっくり長い目で見ないと。
おわりに
・組織開発は現場の問題解決のためのものであり、働く人々の幸せのためのものです。組織開発を実践することが目的になると、その取り組みに歪みが生じます。
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