中小企業の人材開発

中小企業の人材開発

中原淳/保田江美

第1章 中小企業の人材開発

・2000年代、職場における人材開発にアプローチするために「経験学習論」「職場学習論」「越境学習論」という3つの理論群が提唱され、現場で消費。

・中小企業を対象にした人材開発研究3つ、1.効果性研究、2.経営行動研究、3.現状把握研究。

・リソースに制約のある中小企業においてマネジメントの制度化は必ずしも「望ましいもの」として考えられていないが、従業員満足度や生産性などに好ましい影響を与えうる(Saridakis, Muños Torrres & Johnstone 2013)。

第2章 中小企業の実態

・経営者として注力したい人事課題、「管理職のマネジメント力強化」。管理職育成に課題感。

板橋区の起業家インタビューを通じて感じることの一つが、教育への熱い思いです。社長の思いを従業員に伝えることも人材開発につながるのだと思います。

・中間管理職の育成の機能不全を嘆きつつも、経営者自身が原因であること、中小企業には中間管理職を昇進させる時に適切にトランジション(役割移行)を支援する仕組みがないということ。

〇「上の言うことを聞いていれば良い」という体質のメリデメ。

・中間管理職の育成に関しては、それよりも上位の管理職ないしは経営層がメンターの役割を担う可能性。

・「両利きの経営」を志向する中小企業の経営者が最も多い。(中略)経営のフロントラインである管理職育成に課題感を持ち、重視するのは、経営者自らが「知識の活用」のみならず「知識の探索」にコミットするためには、彼らの業務を代行してくれる管理職のマネジメントスキルを強化する必要があるからとも解釈できる。

・「スパン・オブ・コントロール」の概念(Gurick & Urwick 1937, Urwick 1956, Van Fleet & Bedian 1977)。上司が(直接)管理できるのは5,6人程度。(中略)調査対象の中小企業において、スパン・オブ・コントロールをやや超えた人数の管理が通常。

・現有能力を超えなければならない挑戦的で新規の業務経験において、創意工夫が求められ、試行錯誤すると能力の伸長が起こりやすい(McCauley et al. 1994)。組織は管理職育成のために、挑戦的な業務経験ー学習を促す発達的挑戦(Developmental Challenge)ーを計画的に付与することが求められる(Derue & Wellman 2009)。

・「リーダーこそがリーダーを育てる(Leader-Developing Leader)」(金井・守島 2009)。

第3章 中小企業における人材開発施策

・Chowdhury et al.(2014)は、整備された研修は経験をもとに培われた人的資本と業績との関連に影響を及ぼすことや、整備された研修が業務に特有の経験と交互作用を有し、業績を高めることを明らかに。関連する研究として、Allen, Ericksen & Collins(2013)は、人材開発の実践は従業員の社会的コミュニケーション、社会的交換関係の果てに起こり得ることを示している。

第4章 一般従業員の現場における学習

・「社外の顧客と接点を持ち、顧客と社会的相互作用を営むことによって起こる学び」すなわち顧客からの学び。聞き取り調査でも、中小企業的な越境学習の場として最も学習効果が高いと思われるのが「顧客との接点」。

・上司からの支援は行われているが十分な効果を出しえていない。(中略)聞き取り調査においても、管理職自身が育成に困難感を抱いているケースや一般従業員が管理職のマネジメント能力不足を感じる場面も。

・雇用にかける費用を抑えなければいけないからこそ、「育成すべきこと」が多岐にわたり、管理職の育成にまつわる負担を大きくし、(また)人材開発に関する教育を自分が受けていないことによる育成の困難感。

〇思いったら吉日、と、今から教育を文化にするために動くことが、これからの中小企業のアドバンテージになり得ます。

・多くの中小企業の人事担当者から語られた「中小企業の人材開発は、社内よりも社外にある」。(中略)「顧客」は中小企業において社会化エージェントであり、学習資源のひとつ。

〇良い顧客に巡り合えるかどうかで大きく違うと思います。ミニ起業家はここが大きいかもしれません。

第5章 管理職の現場における学習

・「中小企業白書」(中小企業庁 2018)によれば、過去3年間と比べて今後3年間のOFF-JT実施費用を増加する中小企業の割合が増加。

・成長を促す経験3つのカテゴリー「課題」「他者」「修羅場」(MaCall, Lombardo & Morrison 1988)。

・「中小企業白書」(中小企業庁 2018)において、経営者と従業員のコミュニケーションの強化が人材開発につながり、生産性を高めている企業事例が紹介されている。経営者が管理職とコミュニケーションを取ることは管理職のOJTにおいて重要。

・研修に参加するだけではなく、研修後に社内のメンバーに学びを共有したり、仕事に活かすことがマネジメント能力を高める。研修後に学びを活かした行動を取れる環境が必要。(中略)小集団活動が中小企業において研修の学びを共有する場に。

・挑戦的な仕事の経験を付与するだけでなく、フィードバックが経験を成果につなげるために重要であり、特により困難な経験を付与する場合にはフィードバックが非常に重要になることを示唆(Derue & Wellman 2009)。

・中小企業の管理職のマネジメント能力開発において、経営者の力が大きなものであることが明らかに。

〇直接熱意を伝えられるか否か。

第6章 総合考察

・管理職自身が自分の成長を後回しにしていること、組織として管理職の育成が後回しにされていることが、管理職育成が困難な理由。「管理職の育成は早期に行い、経験学習を促すこと」、「仕事を覚えた若手従業員(4年目以降)に挑戦的な業務経験を付与すること」が求められる。

・哲学者の中村雄二郎が言う「臨床の知」3つ、1.個々の場所や、個別の時間の中で人が生きていること(コスモロジー)、2.物事の多義性の中で、意味を模索しながら人が生きていること(シンボリズム)、3.人々は相互に相手に関わり、相互作用を営みながら生きていること(パフォーマンス)を重視する知的態度。(中村 1992)。

・「臨床的な人材開発研究」ーひいては人的資源の観点からの「臨床経営学」の構想ーに希望を見る。本書が模索した学問的貢献の結語。

・人材開発研究とは、過剰な一般化を志向するのではなく、特定の「時間・文脈・場所」に限定された「中範囲の理論」を目指すべきでは。

応援クリック、励みになります!

にほんブログ村

Follow me!


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください