共感脳: ミラーニューロンの発見と人間本性理解の転換

共感脳: ミラーニューロンの発見と人間本性理解の転換

クリスチャン・キーザーズ

第1章 ミラーニューロンの発見

・1990年8月のある暖かい晩に、パルマ大学で、レオナルド・フォガッシ(Leonard fogassi)、ヴィットリオ・ガッレーゼ(Vittorio Gallese)、ジャコモ・リゾラッティ(Giacomo Rizzolatti)とそのチームのメンバーは、彼らがいま発見したことをすぐには理解できませんでした。数年後、高名な神経科学者であるヴィラヤヌル・ラマチャンドラン(Vilayanur Ramachandran)は、(中略)「ミラーニューロンは、DNAが生物学にもたらしたものを、心理学へもたらすだろう」。

「見る」から「する」へ

・ヴィットリオと彼の研究チームは、社会的相互作用の最大の謎、つまり、なぜ人間にとって他者の心を読むことはそれほど容易なのか、という謎を解く鍵を見つけたのだと理解しました。(中略)今、脳神経科学は、この議論に新たな光を当てる現象を発見したのです。

行動から生じた音を聞いた時には何が起こるのか

・ミラーニューロンは、ある行動を見ることと、聞くことと、実行することを、結合しているようだということです。ミラーニューロンは、トライリンガルなのです。

第3章 人間のミラーリング

自分自身の動作を通じて、動作の音を理解する

・サルの聴覚のミラーシステムの存在を立証してからわずか2年で、人間にも同様の選択的なシステムが存在することをfMRIを用いて確認できたのです。

共感的な人ほど強いミラーシステムを持つ

・ミラーシステムの考えには、共感的な人ほど強いミラーシステムを持っているはずだという発想が伴っています。すべての人が等しく共感的なわけではありません。

・行動に関するミラーシステムの活性化は、他者の痛みや苦痛の共有よりも、(中略)他者の目的や動機の理解と深く関係しているようです。

・サルに、水平線を無視し、垂直線が明滅し始めたらボタンを押すという課題を課した場合、注意を払われない水平線に対する脳内の死角領域の反応は、ほぼ全て消えてしまいます。まるで、選択的注意によりイメージから水平線が消されてしまったかのようです。

◯興味のないことは見えなくなる、というのは理解できます。選択と集中をしないと、限られた脳内メモリが無駄に使われてしまうという。若い頃はそれでもたくさんの容量がありましたが(苦笑)。

第4章 生まれながらの社会性

振舞い方を学ぶと知覚も変わる

・ピアノのコンサートの録音を聞いてもらい、その間の脳の活動を記録しました。ピアノを演奏したことがない被験者の運動前野では、ほとんど活性化が見られませんでしたが、熟練のピアノ奏者では、ピアノの演奏に関わる運動前野のプログラムが自動的に活性化しました。ピアノの弾き方を習うことは、どういうわけか、ピアノの聴き方を変化させていたのです。

・人は、訓練したことのないスポーツや活動の基本動作についても知覚できますが、訓練してきた動作については、より豊かな知覚が生じるのです。

・もし他者の特定の行動を心から理解したいと思うなら、単にそれについて調べるだけでなく、その人のスキルを習得するべきです。そうすれば、その行動をずっとよく理解できるようになります。

直観の神経基盤

・人間は、専ら自分自身のことだけを取り扱う脳ではなく、他者の気持ちを感じることのできる脳を持って生まれてくるのです。人間の脳は、周囲の人に共鳴するようにセットアップされています。

第5章 言語

基礎1:メッセージが届いたことを理解する

基礎2:聞くことは実行すること

・ミラーニューロンは、コミュニケーションの感触を与えることによって(基礎1)、また、他者が話していることを感じることができるように、彼らの(発声)動作の音に対して運動プログラムを活性化させることによって(基礎2)、言語の進化に貢献してきたと思われます。

基礎3:意味と単語を結び付ける

・fMRIを用いた新しい実験の結果から、「リック(なめる)」と聞いた人は、その人が口を動かすときに用いる部分と同じ運動前野が活性化し、「キック(蹴る)」と聞いた人は、足の動作を表象する運動前野が、「ピック(摘む)」と聞いた人は手の動作を表象する運動前野が、それぞれ活性化することが明らかになりました。これらの活性化は、それぞれの動作を見たときに反応するミラーニューロンが含まれる領域で生じていました。

・ニューロンの中には、そのサル自身が眼を動かしたときだけでなく、他のサルが眼を動かしているのを見ただけで活性化するものがあり、眼の動きを見ることと、自分自身の眼を動かすことの間に、まるで「ミラーニューロンのような直接的関係」(mirror-like connection)があることを発見したのです。

・ミラーニューロンが発見される何年も前の1980年代に、パルマのジャコモ・リゾラッティ(Giacomo Rizzolatti)と彼らの同僚研究者たちは、つかむことを司る運動前野のニューロンの中に、サルがつかむ動作をしていないのに、つかむ動作と関係のある物体を見ただけで反応するものがあることを見出していました。彼らはこれらのニューロンを「カノニカルニューロン」(canonical neuron)と名づけました。

・どちらのニューロンも、サルが自分で物を扱ったときに反応しますが、カノニカルニューロンのみが、その扱いが当てはまる物を見たときに反応し、また、ミラーニューロンのみが、他のサルが同じ行動をしているときに反応するのです。

第6章 感情を共有する

感情の伝染と表情の模倣

・有力な心理学の諸理論では、他者の感情の処理に関わる特殊なメカニズムには少なくとも2つある、とされています。第一に、「直接的表情模倣」(direct facial mimicry)と呼ばれるもので、観察者の顔の表情は、自分が見た人の表情を頻繁に模倣するという、観察に由来しています。

・第二のメカニズムは、「直接的感情伝染」(direct emotional contagion)と呼ばれるもので、これは、悲しんでいる人たちと一緒にいるとこちらも悲しくなり、楽しい人達と一緒にいると楽しくなることに由来しています。

・もし私があなたの顔を模倣して微笑んだら、私の笑顔があなたの笑顔をさらに大きくし、あなたを幸せな気分にさせ、ついには、2人とも声を出して笑うようになるのです。

・人は、もう1人の人と、競合関係にあることを知ると、感情伝染と表情模倣は両方共低減しました。また、被験者に、表情の表出を誇張する、あるいは抑えるように指示した実験では、経験された感情も、高まる、あるいは抑えられることが示されました。

◯つられて笑ったり、怒ったり。芸人の「誘い笑い」もそうですね。

ミラーニューロンからシェアードサーキットへ

・ミラーニューロンという用語は、動作という文脈の中でつくられた用語です。なぜなら、脳は、ミラーニューロンを介して、内的に他者の動作をシュミレーションし、それらを反映したイメージをつくり出すからです。

・運動前野と島皮質のどちらも、他者の動作や感情を代わりに共有するための神経回路を含んでいます。そこで、私たちは、動作に関するミラーニューロンや、嫌悪感に関する島皮質など、同様のシステムを含めて、神経プロセスの全般を指す言葉として、「シェアードサーキット」(shared circuit)という用語をつくることにしました。

笑顔とつくり笑いの違い

・政治家の笑顔を見たときに、人はすぐにそれがつくり笑いだと察知します。(中略)生活のために表情をつくる俳優さんたちは、通常、笑顔をつくろうとせずに、陽気な心の状態になろうと最善を尽くします。すると、自然に笑顔になれるのです。

・なぜ、わざと表情をつくるのは難しいのでしょうか。その答えは、顔の自発的な動きを制御する脳領域が、感情的な顔の表情をつくる脳領域と異なっているという事実にあります。

ポーカーフェイスの人と感情を共有する

・模倣は、見るものと見られるものとの間に絆をつくるのに役立つかもしれません。なぜなら、模倣は見られる者の感情に見るものが同調しようとする意思を表わしているからです。

◯あなたを見ているよ、という感情は伝わりますね。

第7章 感覚

触られるのを見ることは、文字通り触ることである

・人間は、動作でも、感情でも、知覚でも、自分が同じ状態を経験するのに用いる脳領域を利用しているようです。動作には運動野、感情には感情野、感覚には体性感覚野と、活性化した脳の領域は変わりますが、その原理は同一なのです。

なぜクルマへのダメージを痛く感じるのか?

・シェアードサーキットの働きにより、人間は直感的に、周囲の世界を擬人化(anthropomorphize)、あるいは、擬自化(egomorphize)しているのです。

第8章 共有の学習

・シェアードサーキットはいたるところに存在しているようです。人間は、他者の動作、感覚、感情を目にすると、自分自身の動作、感覚、感情を活性化させます。これは、ミラーニューロンはどのように発達するのかという、簡単ですが、革新的な問いを提起しています、

・シェアードサーキットに基づいた社会的認知に関する神経科学的説明の妥当性は、そのような回路がいかにして出現可能なのかの説明如何にかかっています。本章では、シナプス結合のミクロな世界に潜入し、「ヘッブ学習」(Hebbian learning)を基礎にして、その説明をしてみたいと思います。

※ヘッブの法則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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ヘッブの法則(ヘッブのほうそく)は、シナプス可塑性についての法則である。ヘッブ則ヘブ則とも呼ばれる。心理学者ドナルド・ヘッブによって提唱された。ニューロン間の接合部であるシナプスにおいて、シナプス前ニューロンの繰り返し発火によってシナプス後ニューロンに発火が起こると、そのシナプスの伝達効率が増強される。また逆に、発火が長期間起こらないと、そのシナプスの伝達効率は減退するというものである。※

ヘッブ学習はシェアードサーキットを驚くほど単純化する

・ヘッブは、脳内の機会的なプロセスを用いて、心(mind)を説明できることを示し、心理学に革命をもたらしました。ミラーニューロンとシェアードサーキットは、社会を認知するのにこれらのプロセスを使っています。同時に発火するニューロンは互いにつながる-そして、人びとを結びつける、と付け加えてもよいでしょう。

第9章 自閉症と誤解

自閉症者は社会的な世界を無視している

・(映画を見ていて)普通に発達した人は.、約70%の時間、俳優の目を見つめており、さまざまな俳優の視線と顔の間を、行ったり来たりしていました。自閉症者は、わずか20%の時間しか目を見ておらず、それよりもずっと長い時間、俳優の口やその情景に出てきたさまざまな対象物を見ていました。

自閉症者はあまり模倣しない

・自閉症者は、動作と顔の表情を模倣できますが、それほど自発的にするわけではないこと、また、その障害は年齢とともに軽減していくことです。

◯小さいうちから、親がしっかりと見てあげる、真似てあげることが大事なんだけど、それってすごく大変で。自閉症の子どもじゃなくても、子育てって大変だから。それでも、諦めちゃいけないんだろうし。最近、仕事で子どもに関わることが多いから、とても気になる話題です。

自閉症におけるミラーシステムの活動を神経イメージングで定量化する

・自閉症では、ミラーシステムが壊れているのではなく、単に反応が遅いだけだと思われます。この考え方と一致して、私たちが検査した自閉症のミラーシステムの活性は年齢とともに強くなり、社会的な機能も強くなりました。高齢でミラーシステム活性の高い人たちほど、友人が多く、仕事をしている割合も高かったのです。

ミラーニューロンの損傷は心の損傷か

・シェアードサーキットは決して魔法ではなく、自分自身の動作、感覚、感情の点から、他者を解釈するだけなのです。

・何者も、他者が必要としていることは何かを、ただ感じることの正確さに代わるものはないように思われます。

◯相手を慮るとき、自分基準になりがちです。自分とは価値観が遠い人と付き合うのであれば、いかに相手を感じて受け入れられるか。

類は友を呼ぶ

・2種類の研究結果が、「類は友を呼ぶ」の方がカップルにとって有益だとする考え方を支持しています。一つは、被験者は自分と似た相手をより魅力的と思うことです。(中略)もう1つの研究では、(中略)教育水準、賢さ、魅力が似ている人たちほど幸せであることを見出しました。

・シェアードサーキットの発見により、人間は類似している領域では自らの直観を信頼できますが、異なっている領域では、パートナーも自分と同じように感じているという間違った判断を導くかもしれないので、慎重でなければなりません。

経験を積めば摘むほど理解力は上がる

・社会性の高い人は、他者と効果的に交流するために、直観と認知の両方を用いますが、何か特別な直観を持っています。時折、他者に感じる「馬が合う」という感覚の多くは、シェアードサーキットがその人に調和している(つまり自分たちが似ている)程度を反映しているのです。

◯似ている人を好きになる。家族愛みたいなものでしょうか。

第10章 社会認知の統一理論

他者を理解するには思考と直観の両方が必要

・他者のことを意識的に考えるというのは、2段階のプロセスです。はじめに、人は他者の状態をミラーリングし、それから内省します。人間は、他者について直接考えているのではなく、自分自身の状態にミラーリングされた他者について考えているのです。

あなたが学ぶことを私は学ぶ

・ハーバードの心理学者B.F.スキナー(Burrhus Frederic Skinner)は、昆虫から人間に至るあらゆる高等動物において、報酬をもたらす行動はその頻度が増加し、罰をもたらす行動はその頻度が減少することを示して、行動の可塑性の理解に多大の貢献をしました。

・報酬と罰が、脳内でアセチルコリンとドーパミンの放出量を調節し、そのような学習が生じます。

・ほとんどのどうぶつの脳には、ドーパミンとアセチルコリンを通じて、自分自身の行動の結果に基づいて学習するメカニズムが備わっています。

教えることの意味:公の場における賞と罰

・教育の領域では、他の生徒の学習経験を生き生きと目撃することが自分の貴重な学習経験の一部となることを、シェアードサーキットの発見は力強く支持しています。

第11章 共感倫理とサイコパス

・現在、心理学や神経科学からは、異なる見解が示されています。道徳に関しては、知性よりもシェアードサーキットの方がはるかに強く関わっているのかもしれません。人間は、まず、人を苦しませることは正しいか、間違っているかと考えるようなことはしません。それを感じるのです。

倫理は思考よりも感情と強く関係している

・明らかなことは、感情こそが、人間の行動の第一動因であって、友人と話したことで感情が変化した場合にのみ、判断は劇的に変化するのです。

◯感情に訴える。お客様に共感してもらってこそ、ビジネスも成立するのだと思います。

進化の謎:なぜ利己的な遺伝子は他者に配慮するのか

・人間は、気分が良くなるから、飲んで、食べて、眠って、セックスをするのです。これと同じことが、共感や人間の道徳感覚にもあてはまります。サルも、またおそらく大半の人間も、他者を傷つけない理由は、そのほうがより良いだろうと計算したからではなく、他者を傷つけると自分も傷つくからなのです。

エピローグ ミラーニューロンは善か悪か

・シェアードサーキットの発見は人間性に関する考え方を変えました。厳密には、人間は周囲の人々から切り離されているわけではないのです。

・なぜ人間は、遠くのアフリカの子どもたちよりも、すぐ近くの人を気遣うのか、ということも理解できます。人間の生物的な仕組みとシェアードサーキットから考えると、眼から遠いものは心からも遠いからなのです。

◯毎日の発信、「俺はここにいるよ!」というのもよく当てはまります。発信しない人はいないも同じ。

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