演劇ワークショップのレッスン

演劇ワークショップのレッスン

鴻上尚史

はじめに

・「ごっこ遊び」とは、自分以外の何者かになって遊ぶことで、演劇ワークショップの基本の一つ。

・子どもたちが「原っぱ」で遊ぶ内容が「演劇ワークショップ」で学べることに多くの人が気付き、子どもたちの失われた「原っぱ」の代わりに。

・「アイスブレイク」「ファシリテーション」「コーチング」は、「演劇ワークショップ」と密接な関係があり、連日の飲み会の代わりにビジネス界が見つけた「関係の作り方」。

・「世間」とは自身が関係している人たち。「世間」の反対語は「社会」で、自身とは何の関係もない人たち。(中略)知らない人たち同士が集まった会議でなかなか打ち解けられず、会話が活発にならないのは、「社会」の人たちと会話することに慣れていないから。

Ⅰ 演劇ワークショップについて

・現実の人生は失敗が許されないことが多く、一度失敗するとそこからやり直すことも難しいが、「演劇ワークショップ」が提供するゲームは、何度でも積極的に失敗し、何度でもやり直すことができる。人生でぶつかる問題の趣味レーションが(演劇ワークショップ」の)「ゲーム」。

・ゲームが楽しいと、感情と体が解放される。解放されて初めて深く集中することができる。体をほぐすことで初めて感情がほぐれ、創造力もほぐれる。

・(「演劇ワークショップ」に)「お勉強」に来ているような真面目な人には、「コミュニケーション力とか表現力が目的ではなく、一生持て続けるためにやるんです。老人ホームに入ってもずっともてるために、演劇ワークショップをやるんです」と挑発。

〇一生モノの技術だなぁ、と改めて感じます。

・「リーダー」はコンテンツに責任を持ち、「ファシリテーター」はプロセスに責任を持つ。

・ファシリテーターは、本人が何を言いたいのか、何をしたいのか、自分で気付くように助言。「再度コーチ」。人間は人から言われたことより、自分で気付いたことを忘れない。ファシリテーターはなるべく参加者本人が気付くように導く。

・「ごっこ遊び」とは、エンパシー(empathy)を育てるための重要な訓練。

・シンパシー(sympathy)は同情心。シンデレラを可哀そうと思う気持ち。「自分の嫌なことは人にしない・自分の好きなことを相手にもしてあげる」ことだが、多様化した時代には、自分が好きなことは、相手にとって嫌いなことのことも。

・エンパシーは「相手の立場に立てる能力」。自分が好きなことが相手も好きとは限らないと考えられる能力。能力だから育てることができる。一番手軽で有効な方法は「自分以外になってみる」こと。自分以外のものとして、言葉をしゃべり、動く経験によって「相手の立場を考える」ということができる。

・「演劇ワークショップ」終了後の振り返りは重要。「協調性」のために振り返るのではなく、自分の体験を確認し、気付いたこと、分かったことを言葉にし、他者の振り返りを聞くことで「相手の立場に立てる能力」を育てるために振り返る。

・コーチングでは「『なぜ』ではなく『なに』を使うこと」というアドバイスが。「なぜ」で相手を追い込むのではなく、「何が原因でできなかったのか」を聞く。

・英語ではダメ出しを、「ノート」という。演出家のノートには良い点も残念な点も書いてあり、それを訳者の前で発表。

Ⅲ 感情と体を育てるレッスン

・ただの鬼ごっこでも、「足音を立てない」「気を抜かない」「余計な緊張をしない」ということに気を付ければ、感情と体をコントロールできる重要なレッスンに。

〇考え方、取り組み方で全く違ったものになりますね。

・声を出すことに緊張している人は、多くの場合同時に体も強張っている。鬼ごっこで必死に手をつないで追いかけているときは、体には余計な緊張は中々入らない、声を出すのに適した状態。

Ⅳ さまざまなことを意識するレッスン

・人減が進歩するための社会学的な考え方に3つの方法。「試行錯誤」←とにかく色々とやってみる、「権威者教示」←先生や先行く人に教えてもらうことや本から学ぶ、「模倣」←真似をする。

・上手い俳優は「観察上手」。(中略)レッスンの時に相手のポーズをよく観察し、自分の表現の中に取り入れる。自意識にとらわれている人はいつも自分のことに悩んでいるので、中々他人を観察できず、自分しか見ていないので、いろいろな表現の手がかりや情報が全く入ってこない状態。

・「五感を意識するレッスン」。五感以外に「身体感覚(身体全体で感じる感覚)」という第六感も意識し、育むためのレッスン。それらの感覚に自覚的になることで、表現とコミュニケーションが豊かに膨らむ可能性が。

・「内面→表現」。色々な内面を体験することで表現が豊かになるが、逆の回路「表現→内面」も。色々な表現をすることで内面が豊かになるということが起こる。

〇演劇の力はまさにここにあると思います。疑似体験は、現実に勝るとも劣らない。

・音に鈍感な俳優は表現力が育たない。

Ⅷ 物語を生きるレッスン

・生きることは、さまざまな物語を生きること。家庭、仕事場、学校、友達の前で「さまざまな自分」を演じながら生きている。人間は演じる存在。(中略)実際の人生の前に、色々な物語を生きて予行練習を。何度失敗しても大丈夫。自身の実際の人生をうんと素敵に魅力的に演じるためのレッスン。

Ⅸ 演技のためのレッスン

・日本語はとてもステイタス(地位・立場)に影響を受ける言葉。

・考えることと感じることを両立させるレッスン。演技はその二つが両立することを求める。(中略)全ての表現、思い出話を語ることからプレゼンや演技まで、すべて同じ。

・演技派「セリフの決まったアドリブ」。いうべきセリフは決まっているけれど、それをどういうかは、そのセリフの直前の相手のセリフを聞かないと分からない。

〇これは講師の立場として、講義の際に一番大事にしなくてはいけないことだと思います。

おわりに

・「コミュニケーションが得意な人」というのは、誰とでもすぐに仲良くなれる人のことではなく、「物ごとがもめた時に、なんとかできる能力のある人」のこと。

・「多様性」はしんどいが、一人一人の自由と尊厳を守り育てていくためには、多様性を大切にすることが重要。そのためには、一人一人違う相手と粘り強くコミュニケーションしていくしかなく、そのための技術が「演劇ワークショップ」。とにかく「楽しく」やること。

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