善と悪の生物学(上)
善と悪の生物学(上)
ロバート・M・サポルスキー
第2章 一秒前
・交感神経系は、興奮するような状況に対する体の反応を仲介。「闘争か逃走」のストレス反応もその一例。
・交感神経は「4つのF - fear(恐怖)、 fight(闘争)、 flight(逃走)、 fuck(セックス)」を仲介。
・左右の脳半球間に見られる機能の違いは一般的に微妙、(著者は)側性化を無視。
・恐怖や不安を感じる脳領域(扁桃体)が、攻撃性を生み出すことに強く関与。
・脳に入る感覚情報の中には、近道する(大脳皮質を経由せずに直接扁桃体に入る)ものがある。(中略)感覚情報はこの近道で素早く扁桃体に到達するが、あまり正確ではない。
・「前頭葉は、それが正しい行動であるとき、より難しい方をやらせる」。
・最善及び最悪の行動の多くに、(認知の)vmPFC(腹内側前頭前野)と辺縁系や(情動の)dlPFC(背外側前頭前野)との相互作用が関与。
・vmPFCとdlPFC(情動と認知)は正常な機能に必要な協調関係で絡み合っており、情動と認知両方の要素を含む課題が難しくなっていくと二つの構造物の活動は同期するように。
第3章 数秒から数分前
・虐待する母親と一緒に幼いラットやサルを育てると、母親にべったりになることや、人間も自分を虐待する人を愛することが分かったとき、行動主義の法則は破綻。
・姿勢のような身体的手掛かりからもサブリミナル情報を引き出すが、ほとんどの情報を顔から得る。(中略)目に表れている感情こそが顔全体の感情を代表する。
・フェロモンが恐怖を伝える。(中略)恐怖の汗を嗅ぐことで扁桃体が活性化。驚愕時のような扁桃体の反応が大きくなり、サブリミナルな怒りの表情をよりはっきりと感知でき、あいまいな顔を恐ろしく見えると解釈する確率が上がった。
第4章 数時間から数日前
・強い感情を表す顔を見ると、その顔に似た表情をかすかに浮かべる傾向があるが、テストステロンは共感的模倣を押さえ、他人の目を見ることで感情を読み取るのが下手になり、見知らぬ顔は見慣れた顔より扁桃体を活性化し、信頼できないと評価。
・テストステロンは自信と楽観を強める一方、恐怖と不安を軽減。
・テストステロンが攻撃傾向のある人でのみ攻撃性を高めるように、すでに寛容である人の寛容さを高める効果。
・愛情ホルモンと言われるオキシトシンによって、人は(身内である)我々に対してより向社会的になり、他者に対してはひどいことをするように。包括的な向社会性でなく、自民族中心であり、外国人嫌い。
第5章 数日から数か月前
・学習の本質。無意味な事実が繰り返され、何度も繰り返されると「そうか!」の電球が点灯し、突然理解する。シナプスのレベルでは、繰り返しグルタミン酸を放出しなくてはならない軸索終末(シナプス前)は、単調な声でくどくどと話す講師。シナプス後の閾値を超えるものが放出され、NMDA受容体がはじめて活性化する瞬間に、ようやく樹状突起スパインが加わる。
〇数稽古。
第6章 青年期 - 「おれの前頭葉はどこだ?」
・脳の容積は2才までにすでに成人の約85%だが、発達の過程ははるかに進みが遅い。最後に成熟しきる(シナプスの数、ミエリン形成、代謝)脳領域は前頭葉であり、完全に繋がるのは20代半ば。
・青年期の始まりには、未成熟のシナプス、ミエリン形成の不足による緩慢な通信、矛盾する目的のために働く協調性のない小領域の混乱状態によって、前頭葉の効率は弱められる。(中略)挙句に前頭葉は性腺ホルモンの干満にさらされているため、未熟な振る舞いをする。
・最も優れた犯罪対策ツールは30歳の誕生日。
・前頭葉は最後に成熟するからこそ、本質的に遺伝子に制約される部分が最も小さく、経験によって形成される部分が最も大きい脳領域。(中略)人間の脳の発達の遺伝的プログラムは、できる限り前頭葉を遺伝子から自由にするように進化。
第7章 ゆりかごへ、そして子宮へもどる
・幼少期の大きなストレス因子は、子供と大人両方でグルココルチコイド値の上昇と交感神経系の活動過剰を引き起こす。(中略)脳に過剰なグルココルチコイドがあふれると、特に発達段階では認知、衝動制御、共感などに悪影響が及ぶ。成人期には海馬に起因する学習障害が。
第8章 受精卵までもどる
・全てのDNAが遺伝子を構成するわけではなく、遺伝子間にはタンパク質をコードしないDNA領域がいくつもあり、「転写」されない。DNAの95%が非コード領域。進化によって不活性化された偽遺伝子の残存物だが、その中に「特定の遺伝子をいつ転写するかのマニュアル、遺伝子転写のオンオフスイッチ」が。「プロモーター」と呼ばれる短い配列、「オン」のスイッチ。
・遺伝子は環境という背景なしには意味がない。プロモーターと転写因子は「もし~なら、 - だ」構文を取り入れる。
・「遺伝子が何をするのかを問うのは意味がない。特定の環境で何をするかを問え」。
第9章 数百年から数千年前
・文化的差異には生物学的相関。個人主義文化の被験者は、親戚や友人の写真を見るときに比べて、自分自身の写真を見るときに(情動の)内側前頭前野(mPFC)が強く活性。東アジア人の被験者でははるかに弱い。
・心理的ストレスの文化間差異。自由に思い出すように言われたとき、アメリカ人は自分が誰かに影響を与えたときのことを思い出す傾向が強く、東アジア人は自分が誰かに影響を受けたときのことを思い出す傾向が強い。
・狩猟採集民社会は、公正の執行、間接互恵、独裁の回避に多大な集団的努力を。実現するのは「噂話」という規範執行メカニズム。
第10章 行動の進化
・ケーキのレシピが遺伝子型で、ケーキの味が表現型。遺伝子型至上主義者は、伝えられるのはレシピ、安定した自己複製子を作り上げる言葉の配列であることを強調。表現型主義者は、人はレシピではなく、味で選ぶのであり、味にはレシピだけでなく多くのことが表れる。
・社会生物学者は、断続的平衡説者を「まぬけ(ジャーク)」と呼び、断続平衡説者は社会生物学者を「気味の悪い奴(クリープ」)と。断続平衡=進化は一連の急激な変化(ジャーク)、社会生物学=進化は緩やかで匍匐前進(クリープ)のプロセス。
・漸進も断続的変化も進化では起こっていて、関与する遺伝子次第。(中略)自分と異なる新しい種を生み出す雌はいない。
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