帝国の慰安婦
帝国の慰安婦
朴 裕河
第1部 慰安婦とは誰か ー 国家の身体管理、民間人の加担
第1章 強制連行か、国民動員か
・数百万の軍人の性欲を満足させられる数の「軍事用慰安婦」を発想したこと自体に軍の問題が。日本軍の責任は、強制連行があったか否か以前に「黙認」が。
・彼女たちの「移動」に手を貸し、黙認したのは国家権力と民間業者。後日の「慰安婦」の前身は「からゆきさん」、つまり日本女性たち。貧しい女性であり、多くは騙されたり親によって売られていた。
・謝罪というものが、憎しみを説くための応答の行為なら、韓国及び北朝鮮の中にも慰安婦たちに謝罪すべき人たちも。植民地の矛盾であり朝鮮人慰安婦問題の矛盾。
・慰安婦と挺身隊の根本的な違いは、現実に現れている慰安婦の多くが、貧困による無学者か低レベルの教育しか受けなかった人たちであるのに対し、挺身隊に動員された若い人は学校教育システムの中にいた者たち。
・軍が要望する圧倒的な数に応えるための「挺身隊」という装置。合法的な挺身隊の存在が不法なだましや誘拐を助長。
・彼女たちを家出させたのは、「家」が男性中心で、彼女たちを保護し教育する「家」としての役割を果たしていなかったから。初期の「からゆきさん」のように、そのような家父長制的構造は日韓とも共有。
第2章 「慰安所」にて ー 風化する記憶
・男性たちだけで構成されている軍隊に投入され、軍人たちが戦争をしている間、必要な様々な補助作業をするように動員された存在が慰安婦。
・戦争で強姦の対象になった「敵の女」と慰安婦は、軍との関係で根本的に異なる存在。
・植民地となった朝鮮と台湾の「慰安婦」たちはあくまでも「準日本人」としての大日本帝国の一員。
・日本人慰安婦と朝鮮人慰安婦の間には階級差が。帝国の中の「内地」と「朝鮮半島」の差別は慰安婦たちの中にも。
・慰安所を性欲を満たす空間としてのみ考えるのは「士気」を高める名目で軍隊生活を維持させようとした国家の策略が見えていなかったゆえの理解。
・慰安婦と一緒に泣く軍人たちは必ずしも同情だけでなく、自分の立場もまた慰安婦に劣らないと思って泣いたのだと。
・慰安婦の経験を聞く者たちは、それぞれ聞きたいことだけを選び取ってきた。否定者も支援者も、それぞれ持っていた大日本帝国のイメージに合わせて、慰安婦たちの「記憶」を取捨選択。
〇聞きたいことしか聞かない、時には誘導することもあったのでしょうか。如何に謙虚に対話をするか否か。エコーチェンバー・フィルターバブル→多様性の化学
・ほとんどの慰安所は軍の直接・間接的な管理のもとに。従軍慰安婦とは、引率者の「従軍業者」が作った存在とも。
・慰安婦を対象に暴行と監視と中絶などの手段を使って管理したのは業者たち。軍に対する忠誠は経済的利益のみならず、皇国臣民としての愛国心ゆえの可能性も。
第3章 敗戦直後 ー 朝鮮人慰安婦の帰還
第2部 植民地支配と朝鮮人慰安婦
第1章 韓国の慰安婦理解
・奴隷的労働の物理的な「主人」は、軍隊ではなく業者。彼女たちの「自由と権利」を奪った直接的な主体が、慰安婦たちが「主人」と呼んでいた業者たちだったことは記されない。慰安婦を必要としたのは国家だから日本こそが奴隷の本当の主人だが、構造的権力と現実的権力の区別は必要。
・日本の否定者たちは植民地朝鮮との関係を見ないまま単なる「売春」とのみ考え、韓国は被害者としての思いを「強姦」のイメージに集約させたが、植民地だったがゆえに強いられた協力的構造が両方によって否認。
第5章 <世界の考え>を考える
・運動は成功したが、様々なケースの女性の問題を「性」を媒介にすべて等しく扱ってしまったために、朝鮮人慰安婦の特徴を消去し、欧米の「植民地支配」の影を消してしまった。「慰安婦問題」を「紛争下の女性に対する暴力の象徴」としたことは、「慰安婦」間の様々な「差異」も消す。
第3部 記憶の闘い ー 冷戦崩壊と慰安婦問題
第3章 ふたたび、日本政府に期待する
・日本も曖昧ではあっても植民地支配に対する天皇や首相の謝罪はあり、慰安婦問題に限っては補償も。日本の「植民地支配謝罪」は元帝国のうち最も具体的だったとも。あくまでも曖昧かつ非公式に行われた謝罪に過ぎず、公の場でなされていないせいで、過去への謝罪が韓国人に記憶される機会もそこでは消失。
〇マスコミや権力に情報操作されたら何もできなかった時代ゆえでしょうか。今はもう少しマシ、であってほしいものです。
第4章 支援者たちの可能性に向けて
・支援者たちに意図がなかったとしても、「慰安婦」=「当事者」たちはいつの間にか一部の人にとっては、日本の政治運動のための人質になっていたとさえ言える。
第4部 帝国と冷戦を超えて
第1章 慰安婦と国家
・近代以降、海外へ売られていった貧しい少女たちが最初に定着した場所はたいてい港町。彼女たちの移動を支える形で公娼が合法化。帝国主義(国家主義)的移動と定着を支えた場所。
・貧しい女たちの海外移動を助長したのは、家父長制と、自国の勢力を海外へ伸ばそうとした帝国主義、それを支えた国家主義。
・「帝国作り」に参加した国家はほとんど、構造的に「慰安婦」を必要とすることに。
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