関係からはじまる
関係からはじまる
ケネス・J・ガーゲン
はじめに
・「境界確定的存在(bounded being)」と「関係規定的存在(relational being)」。
・内界と外界という区別そのものを撤廃し、関係が生み出す行為という概念で置き換える事を目指す。
・本書にとって最も重要な「マルティン・ブーバー」の『我と汝』。他者との境界はなく、相互に溶け合った統一体。
第1章 境界確定的存在からなる世界
第2章 関係こそすべての始まり
・言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの区別は恣意的なもの。言葉、身体の動き、顔の表情が継ぎ目のない全体を構成しているような協応行為、行為の結びつきに注意を払うべき。
・どの世界を取ってみても、協応行為の産物。
・理解可能な振舞いをする事は、関係に参加する事。
・全ての有意味な行為は協応行為。
・協応行為は相互に制約し合うプロセス。
○お互いにルールを知っているからこそ、成立する。
第3章 関係によって生み出される自己
・考えについて尋ねる時、相手が言葉で答えることを期待している。
・レフ・ヴィゴツキーが導入した今日の思考の文化的基盤についての一連の研究。「精神内で存在するもので、社会的な起源を持たないものはない」。私達が考えと呼ぶものは、他者との会話の私的な翻訳。
・創造的な人物は、両親や先生など「才能ある若い人の関心や能力に気付き、励まし、認めてくれる人の恩恵を受けている事が多い。良き指導者は、教師であり、保証人であり、また友人、カウンセラー、ロールモデルでもある」。
第4章 関係としてある身体
・神経学は、瞬きについては多くの事を教えてくれるが、ウィンクについては何も教えてくれない。
・理解可能なすべての行動は、そのパフォーマンスのために脳を必要とするが、脳が行動を理解可能なものにするわけではない。身体が文化に取って変わることはできない。
第5章 変幻自在的存在と日常生活の冒険
・「変幻自在的存在(multi-being)。
・お互いを理解するという事は、私達の文化のよくあるシナリオの範囲内で行為を調整する事。理解の失敗は、相手の気持ちの本質をつかみ損ねる事ではなく、相手があなたを招待しているシナリオに参加できない事。
第6章 絆とバリケードを越えて
・絆の促進は、絆の解体の種を含んでいる。
・争いは協応行為のプロセスの中で生じているという事を理解。人々が敵対し合うのは、それぞれがコミットする世界の構成のあり方が異なっているから。(中略)対立は、ナラティブの構成の仕方の違いにあり、ナラティブは対話を通して変えることができる。
第7章 知の共同生成
・どのような知にもコミュニティの価値が付きまとう。知を積極的に求める事も、特定のコミュニティに参加する事。
・知を創造するコミュニティがその境界の外の世界に貢献できるか。
・「美容師テスト」。髪を切ってもらっている美容師が興味を惹かれるくらい自分の研究をわかりやすく説明できないのであれば、その研究の価値について再検討すべき。
○小難しい事を言う人ほど、わかっていないのかもしれない・・・。
・知性は「モノローグ(私は知っている)」から、「対話(一緒に探求しよう)」へと動き出す。
・他者との擬態的な出会い。他者の行為を自らに取り込んで再現できる(モノマネできる)ようにしている。他者の生活世界に静かに部分的に参加する事。このプロセスは「変幻自在的存在」を生み出すのに不可欠。
第8章 関係こそが教育のカギ
・合理的に考えるとは、ある文化的伝統に参加するという事。(中略)昨日の授業で覚えている事を尋ねられ、教師の身体の動きを完璧に再現して見せたら、叱られるに違いない。
・生徒は教師に認められ、教師が伝える意味を生徒が支えなければ、互いに意味をなさない。協応行為が無ければ、コミュニケーションも教育もあり得ない。互いの関心や関与があってこそ、相互プロセスに参加できる。
・対話を重視するには、教師は最高の知者としての地位を危険にさらすことが奨励される。(中略)そこで展開していく会話に関連させることが求められる。
○だからこその「インプロ(即興)」の効果。
・多くの学生は、「対話」がエネルギーと知的な刺激を与えてくれると感じている。
・人はコミュニティ(実践共同体)に参加することによって、進行中の実践に共に取り組むメンバーになる。
○正統的周辺参加。
第9章 関係の回復としてのセラピー
・メンタルヘルスの専門職が増えるに従い、診断カテゴリーの数、患者の数、精神疾患への年間支出額が増加している。
・過去に囚われるとは、ある関係の中に閉じ込められたままの事。それはあるシナリオに参加し、密かに維持する事。消耗するようなシナリオを維持する理由の一つは、シナリオが終わっていないから。
○著者も、ネガティブな書評に10年以上苦しめられたそう。憎しみをつづった多くの手紙・・・。解消したのはその書評者の死を知った時・・・。SNSがあったなら・・・。
・セラピーは、人生を語り直すプロセスに注力。支配的な物語(Dominant Story)に挑み、脱構築する事を試みる。(中略)「失われた出来事」は、語り直しのための足場に。セラピーはクライエントがそうした出来事を豊かで可能性に満ちた新しいナラティブの型に入れる事を援助するために用いられる。
・複雑な関係からなり、意味が激しく変化する世界では、効果的な協応行為に即興が大きな役割を果たす。
第10章 組織
・積極的な参加を促す最も重要な手段の一つが「肯定(アファメーション)」。
・組織が新人を肯定するという事は、新人の背後にある関係を肯定する事にもなる。(中略)組織化のプロセスに入っていくのは、「私」ではなく、埋め込まれている関係のネットワーク。
・本書の重要なテーマの多くは、「価値を認める問い(アプリシエイティブ・インクワイアリ―[AI])という意思決定の実践活動と軌を一にする。
・「意志決定には終わりがない」ことを強調するのも大事。それにより、組織内のサブグループや部局同士の境界も緩やかになっていく。
・リーダーシップという概念を関係主導(リレーショナル・リーディング)に置き換える事が有用。つながりを持つ人が互いに影響を及ぼしあい、力を発揮しながら未来を目指す力。
・積極的な共有化。歩兵のように扱われると、歩兵のようにしか動かなくなる。
○これ、見方が人を固定化させてしまう、悲しい例です。お互いが思いやらないからこそ。負の連鎖が続く。
・批判的なアイデアを示す場合は、新たな見方の提供というスタイルを取るのが良い。すでに提示されたものの上に組み上げていく形が有効。
・『リーダーシップのコミュニケーションは、モノローグとして始まる。それがうまくいくと対話になり、その後、会話に変わる』~スティーブン・デニング~
・構造的空隙。境界を乗り越える関係は、組織の存続にとって不可欠。
○越境学習、多様性。
第11章 道徳
・多様な善に浸っているため、関りを持つどんな活動からも離れていく可能性。その慣習が無駄だと感じたり反発を覚える可能性はありうる。
・良心の呵責は、善と悪の戦いではなく、競合する善のあいだの戦い。
・善なるものを確立する事で、悪を作り出している。
訳者あとがき
・「看護師が辞めていく原因の一つに、職場での人間関係の問題があります。これは、本来であれば人を支援しケアするはずの専門家が、後輩や同僚に対して支援的ではない、という矛盾が生じていることを意味します。」
・課題は「関係のケア」であり、「全く対立のない状態を作り出す事ではなく、互いの根絶にまで至ることの無いような対立へのアプロ―チの方法を見つけること」とガーゲンは述べている。支援者とは「関係のケア」を試みる者であり、看護師は「正しい行為をする人」としてではなく、「関係」を扱う専門職として社会から期待されていると気づかされた。
○関係の濃淡は当たり前。そう考えると、人間関係を楽しく捉える事も出来そうです。もちろん限度はありますが(苦笑)。
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