ミラーニューロン

ミラーニューロン

ジャコモ・リゾラッティ/コラド・シリガニア

はじめに

・舞台演出家のピーター・ブルックのインタビュー抜粋。「ミラーニューロンの発見によって神経科学は、演劇界では長らく常識だったことをようやく理解しはじめた。すなわち、演技者は、あらゆる文化的・言語的障害を乗り越え、自分の声や動きを観客と共有し、それによって観客が演劇に能動的に参加して舞台上の演技者と一体化できるようにしなければ、どれほど努力しようとムダに終わる」。(中略)ミラーニューロンに関するブルックの発言は、このニューロンの予期せぬ特性に、神経生理学以外の分野でもどれほど関心が高まっているかを如実に物語っている。

2 行動する脳

・AIP(前部頭頂間野)ニューロンのうち「視覚優位」と「視覚・運動」のカテゴリーに入るものの重要な特性の一つが、特定の三次元の刺激に対する選択的反応。「球体」「立方体」「平たい立体」などそれ毎に対応。ジェイムズ・J・ギブソンが提唱した「アフォーダンス」の概念。対象物の視覚的な知覚とは、その対象物固有の特性をただちに自動的に選択することを意味するという見解。

・多くの対象物には複数のアフォーダンス。AIPニューロンの複数のグループが活性化され、それぞれが特定のアフォーダンスをコード。これらの「行動案」はF5野に送られ、潜在的運動行為を引き起こす。

・F5野とAIPの視覚-運動ニューロンが、実行タスク(対象物を掴む)と観察タスク(掴むことなく見つめる)の両方で対象物の提示に反応するという発見は、対象物がどちらの条件でも同じやり方でコードされていることを示している。

3 周りの空間

・「近位空間」に物があると発火するニューロンは、遠く(「近位空間」の外)にあったときにはコードしなかったものの、熊手を使うことで「近く」の空間に入った刺激に対しても反応。

4 行為の理解

・「標準(カノニカル)ニューロン」。感覚情報を運動情報に変換するのが感覚-運動ニューロンの標準的な機能。(中略)カノニカルニューロン以外の「視覚-運動特性を持ったニューロンのタイプ」=「ミラーニューロン」を発見。

・ミラーニューロンが活性化するのは、手や口といった体の一部が関わる特定の運動行為すなわち対象物への働きかけを観察したときに限られる。対象物のない「自動詞的行為」には反応しない。

・「摂食ニューロン」と「コミュニケーションニューロン」。共通の神経基盤。サルのコミュニケーション行為は、もともと接食やグルーミングに関連していた動きのレパートリーから進化。

5 ヒトのミラーニューロン

・ヒトのミラーニューロン系には、サルで発見されていない特性。「他動詞的」な運動行為と「自動詞的」な運動行為の両方をコードし、運動行為の目的と、行為を構成する個々の動きの両方をコードすることも出来る。「他動詞的」な運動行為でも実際の働きかけは絶対条件ではなく、行為を真似ただけのときも活性化出来る。

6 模倣と言語

・模倣にはミラーニューロンを制御するシステムが必要。促進機能と抑制機能。抑制機能が働かなかったら、自動的に行動が再現されてしまう。

・行為を理解する事と、観察した行為を模倣する事は全くの別物。

・ロシアの心理学者のレフ・ヴィゴツキーの提言。「子供の行う「自動詞的」行為のほとんどが「他動詞的」行為に由来」。(中略)手真似や「自動詞的」な動作、実際の口-顔面部のコミュニケーション行為を観察している間、ヒトのミラーニューロン系も活性化する。(中略)ヒトの口頭言語の制御と生成を司り、皮質半球の外側面にある回路は、解剖学的に似た位置にあるこの系が進化したのでは。(中略)初めは動作により、のちには話し言葉を通じて、ヒトのコミュニケーション能力が出現し進化する過程で、ミラーニューロン系の漸進的な発達が重要な役割を果たしたのでは。

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