採用学
採用学
服部泰宏
【第1章 「良い採用」とは何か?】
<なぜ新人が必要なのか?>
・経営学の古典的研究では、集団は「緩んでいく」ことが報告されている。
・組織や集団というのは、「異質な人よりも同質的な人」「価値観や考え方の違う人よりも似た人」、そして「目標の異なった人よりも共通の目標をもった人」を好む傾向があるため、時間とともにメンバーは少しづつ均質化し、当初あった良い意味での緊張感や活発なやりとりが、少しづつなくなっていく。新しいメンバーの加入は、職場や組織に対して緊張感と新しい息吹を吹き込むことで、閉塞感と硬直性を打ち破る役割を果たしてくれる。
○新しい風。そして新しい風も、時と共に古くなる。さらなる風を呼び込む必要性。
<良い採用悪い採用>
・求職者の中からランダムに「候補者群」を集めて社員を採用した場合に比べて、自社が採用した人材の優秀さの平均が高くなければ、採用活動をする意味はまったくない。
○ここは、微妙な気がします。もちろん理想はそのとおりですが、ランダムでも良いから欲しい、という、まったく人が集まらない場合もあるようですし。というか、そもそも候補者群を集めるのが難しいのかも。
・高い成果をあげるような優秀な人材は、他社への転職機会にも恵まれているだろうし、(中略)いくら高い成果をあげたとしても、すぐに他社へ移ってしまったのでは、採用にかけたコストは回収できない。
<採用活動の流れ>
『(1)募集段階-企業と求職者の「出会い」のフェーズ』
・採用活動においては、「企業が求職者を選ぶ」よりも前に、「求職者が企業を選ぶ」ことがまず行なわれているといっていいだろう。
『(2)選抜段階-企業と求職者の「相互評価」』
・ワークサンプル
実際に仕事をさせ、その成果を評価するもの。(中略)近年、多くの企業が実施し始めている「インターンシップからの採用」の中には、ワークサンプルと重なるものもある。
○実際にやってみることで見えるものがあります。
・企業は、採用時点で手に入る断片的な情報から、採用担当者の経験や勘、あるいは科学的手法などを総動員して、「優秀さ」や「魅力度」を推測していることになる。
○採用担当者の勘、すなわち非言語コミュニケーションの受信による察知。
『(3)定着』
・日本企業の採用担当者は、意識の上では、入社後の業績や離職など、採用活動終了後(入社後)に顕在化する成果にまで配慮をした上で業務を行っているのだが、それらが実際に担当者の責任として問われているわけではない、ということなのだ。
○採用と教育が一体にならないと難しいのかも。
・ワナウスの主張する二つのマッチング-期待と能力。
・求職者と採用担当者が、お互いに、「この相手とは合いそうだ」「一緒に働いてみたい」といった、いわば主観的な相性におけるすり合わせを行なうことがある。それがここでいう、フィーリングのマッチングだ。
【第2章 ガラパゴス化している日本の採用】
<大規模候補者群仮説>
・組織と個人の間に、期待のマッチングを図るために十分な情報交換がないままに、いわば(中略)「空白の石版(白紙状態)のような」雇用契約(労働政策研究・研修機構研究員の濵口桂一郎氏による名称)に合意し、契約の中身については採用後にその詳細が書き加えられていく、というのが日本の採用の現実だ。
・誰も好き好んで、自社のネガティブな情報を出すようなことはしないわけだ。
○リアリティショックを結果的に誘発してしまう。
<曖昧な評価基準>
・日本企業の採用基準を調べた経団連の調査によれば、最も多くの企業が選抜時に重視すると回答した項目の第1位は「コミュニケーション能力」(82.8%)であり、これは同調査において6年連続で第1位を占めている。
・求職者側に、企業が求める能力を有しているかのように「装う」可能性があるのだから、採用担当者としてはたまらない。(中略)採用担当者が、どんなに小さく、かすかな「兆候」であっても、将来の優秀さを予見させるものであれば、すがりたくなる気持ちもよくわかる。
○「装う」を見破るのは難しいかも。でも、嘘くささは伝わる気がします。
【第3章 なぜ、あの会社には良い人が集まるのか】
<入社後のリアリティショック>
・こうした期待のミスマッチは、「リアリティ・ショック(reality shock)」と言う形で、入社後に顕在化する。リアリティ・ショックとは、人が新しい社会、新しい組織、新しい状況に直面した際に、その人がそれに対して事前に抱いていた期待と、彼(女)自信が実際に目にした現実との間のズレによって引き起こされる「衝撃」をさす。
・リアリティ・ショックは、新人の離職につながることが実証されているから、問題は深刻である。
<ホントの情報を与える>
・こうした期待のミスマッチ問題に対して、一つの重要な提案を行ったのが先に紹介したワナウスだ。(中略)ワナウスが提唱したのが「現実路線の採用(realistic recruitment)」だった。一言でいえば、「すべての適切な情報をゆがめることなく求職者に伝える」という採用のあり方だ。
・仕事に関するリアルな募集情報(RJP)の提示が、求職者の期待のインフレーションを抑止する効果があることが確認されたのだ。(中略)ワナウスは、RJPには少なくとも三つの効果があると主張している。
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①ワクチン効果
②自己選抜効果・マッチング効果
③コミットメント効果
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・ワナウスらの一連の研究が示しているのは、募集段階でリアルな情報を提示すると、その結果として求職者による自己選抜が作動し、候補者に含まれる人材の数が減少するが、それは企業にとって決して損にはならない、ということだ。
<募集情報を熟読しない>
・「募集段階では、採用担当者やリクルーターを通じて、求職者が自社にポジティブなイメージを抱くような情報を発信する。そして後期になってからは、求職者の多様かつ精緻な情報収集に配慮しつつ、求職者との間に濃密な関係性を築けばよい」というのが、欧米の研究からの示唆である。
<コラム4 魅力的な「口づて」採用>
・欧米では、企業への入り口に関する研究がかなり蓄積されているのだが、その中で比較的多くの研究者によって取り組まれてきたのが「口づて(Word of mouth)」に関する研究だ。(中略)中でも一貫した結果が報告されているのが、「口づてのように非公式なルートから得た情報に基づいて採用した人材は、企業に長期間とどまる可能性が高い」という結果だ。
○ユニコーンの「働く男」を思い出します。♪おやじがらみのコネもあるから、辞めるわけないし~(笑)
【第4章 優秀なのは誰だ】
・ブラッドフォードによれば、私たちが持っている能力は「極めて簡単に変わるもの」と、非常に変わりにくいもの」の二つがある。
・このように分類した上で、ブラッドフォードは、「簡単に変わる」ものは採用後に育成できるのだから、採用段階でシャカリキになって見る必要はなく、「非常に変わりにくい」ものについては、採用段階でちゃんと持っておかないと、後々どうしようもない、と主張している。
○中原淳先生のブログ。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/09/post_2474.html
<入社後の育成機会はあるか>
・本書では、こうした視点に加えてもう一つ、「自社内で育成の機会がある/ない」という点が重要になってくると考えている。
・「変わりにくい」、あるいは「変わりやすいが自社内で育成機会のない」能力こそが、採用において企業が注目するべき能力である。
<コラム5 面接に紛れ込むバイアス>
・研究者たちが調べたところ、大半の面接では、全体で数十分間の面接であったとしても、開始4分くらいの間に、面接官の多くが採用/不採用の決定を下してしまっているという。
・実際の面接では、求職者の「身ぶり」「アイコンタクト」「表情」「服装」「容姿」「化粧」といった、公式には本来の採用条件となっていない部分が、面接官の評価に対して影響を与えることがわかっている。
○非言語コミュニケーションの基礎理論。「それには4分とかからないであろう(Word et al.,1974)。」
https://learn-forest.com/archives/nonverbal-communication.html
【第6章 採用をどう変えればいいのか】
<採用力の正体>
・採用力=採用リソース(有形・無形)(資源)の豊富さ×採用デザイン力(採用設計力・オペレーション力)
<採用デザイン力とは>
・たとえば内定の連絡をする際、ありきたりで事務的な言葉だけになっていないだろうか。相手にとって、就職というイベントが人生の一大事であることを考えた上で、内定の出し方や言葉の選択が行なわれているだろうか?(「あなたは内定です。おめでとうございます」という言葉と、「あなたの素晴らしい点は○○であり、それは今のわが社にとって最も必要なものです。一緒に働きましょう」という言葉、どちらを聞きたいだろうか)
<「知っている」「わかっている」つもり>
・欧米には、採用に関する膨大な研究蓄積がある。日本では、採用研究はまだまだ始まったばかりだが、幾つかの有益な知見が既に出され始めている。(中略)自社に蓄積されたデータを通じて、自社の採用活動を改めて見直すことで、「知っている」「わかっている」つもりになっていることに関して、謙虚に見つめ直す努力をしてほしい。
・ただ、残念なことに、当の企業のみなさんが、そうしたデータの素晴らしさに気づいていないことが多い。あるいは、データの素晴らしさには気づいているが、それを分析するすべを持っていないがために、せっかくのデータが眠ってしまっていることがある。
<採用プロフェッショナルを>
・面白いのは、「本質的な新しさを含んだ採用」を産み出した企業の多くにおいて、採用担当者と育成担当者が兼任になっている・・・もっと正確にいうと、企業規模あるいは予算上の制約のために、採用業務と育成業務を兼任せざるを得ないような企業において、採用のイノベーションの多くが発生している、ということだ。
・時間と予算と人員に余裕のある大企業がなかなかできていない「育成と採用の連動」を、それらに余裕のない企業が実現してしまっているという事実。
○必要は発明の母。
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