教養としての西洋哲学・思想
教養としての西洋哲学・思想
佐藤優/伊藤賀一
第1章 古代ギリシア思想
・「ギリシア神話」。人間は、神々の定めた運命に翻弄されつつも、自然に対して自発的・対抗的な性格で描かれ、「自然に翻弄される悲劇的な人間」というのが「人間とは何か?」という問いへの答えであり、人類最古の人間観。
・「世界は何からできているのか?」というのが万物の根源(アルケー)についての探求、人類最古の学問とされる「(ギリシア)自然哲学」の出発点に。
・プラトンは、物体を万物の根源(アルケー)とする自然哲学(=唯物論)に対し、精神の優位を説くイデア論(=唯心論)を提唱。のちの近代哲学のドイツ観念論(理想主義)への伝統を確立した「理想主義の祖」といえる存在。
・アリストテレスは、人は本来、国家や社会を離れて生きることはできないと考え、「人間はポリス的(社会的)動物である」とし、国家において正義と友愛(フィリア)が果たす役割について説く。友愛を通じて交流するとき、「善く生きる」ことができると。互いの素晴らしさを認め合う卓越性に基づく深い親愛こそが真の友愛であり、正義を超える意義があると。
・錬金術の究極は、心理操作の技法の究極。ユングが「心理学と錬金術」で指摘。STAP細胞の作製を信じたという意味で、21世紀の錬金術といえる。
〇実績がある人の言葉を信じる、というのは大事ですが、盲信しないように省察する習慣も必要ですね。
第3章 近代思想のめばえ
・アラブの春が挫折した国々では、神権が人権に移行していなかったため、民主主義的で自由な選挙で民衆は欧米的な自由と民主主義を否定し、神権による統治を訴えるイスラム原理主義政党に投票。
・カルヴァンの二重予定説。「親ガチャ」の思想、世の中は助け合うもの、という含意。人間の働く能力は自分の能力ではなく、神からもらった能力であり、神の栄光のために働いており、その成果物は神に返す(神への愛)。直接返すことはできないから他者へ還元(隣人愛)。
〇「昔のほうが『親ガチャ』要素が大きかった」とは、まさに。偉人はそれを乗り越えてきている方が多いですね。
第4章 近代思想の確立
・ベーコンは、イドラ(先入観・偏見)を避け、正しい知識を得るための方法として「帰納法」の重要性を説く。観察や実験から得られた多くの個別的事実を整理し、その中から一般法則を発見しようとする方法。
・デカルトは、正しい知識を得るための方法として「演繹法」の重要性を説く。経験や感覚に頼らず、もっとも単純で確実な真理から段階を踏み、論理的により複雑な結論を導こうとする方法。
対談
・哲学者たちは皆、好き放題言っていて、矛盾だらけのところもあるから、「昔の先輩の話を聞いているというぐらいの気持ちで受講して」と。西洋哲学とか思想の知識は世界の知識人たちの「共通言語」みたいなもの、知っておかないと損。
第5章 市民革命期の思想
・仏のヴォルテールの、宗教的寛容の精神について説いた「寛容論」。「私はあなたの意見には反対だ。しかし、あなたがそれを主張する権利は命を懸けて守る」。
〇受容の精神はコミュニケーションの要ですが、いつの時代も変わらぬ悩みでもあります。
・力によって正義を実現するという考え方は、アメリカの建国原理の中にある。イギリスが排除したピューリタニズムがアメリカの基底に。
第6章 近代市民社会の倫理
・カントは、「もし・・・なら~せよ」という条件付きの命令(仮言明法)に従った行為には道徳的価値を認めず、真に道徳的価値がある行為とは、「~せよ」と無条件に理性から下される命令(定言命法)のみと。
・ミルは、個人の行為に対し社会から外的な制約がなされるのは、他者に直接危害が及ぶ場合に限られるという「危害原則(他者危害の原則)。他人からは愚かな行為に見えても、危険な冒険を決行したり、趣味にのめりこんで散財する「愚行権」。「幸福追求権」と言い換えられる場合が多い。
・ヘーゲルによれば、歴史は英雄によって動かされるが、だいたいひどい目に遭い報われぬまま終わってしまう。理念は英雄に代償を支払わせるが、それによって歴史は動くという逆説が「歴史の狡知」。
・ポジティブというとあるべき姿とイメージされやすいが目の前にあるものを見据えるということ。ポジティブシンキングとは「現実と妥協しろ」「上司の言うことを聞け」ということ。保守的な言葉。「ネガティブシンキング」は、現状を変えようということに。哲学的な思考習慣を身に着けると世の中の見方が変わってくる。
〇良き哲学者は、多面的な見方を教えてくれるのでしょうか。
第7章 社会主義とプラグマティズム
・体制側の文書を使った方が真実に迫ることができることを筆者(佐藤)はマルクスから学んだ。体制側が発表する文書や統計数字には公開者の意図が込められており、読み解くことで内在的論理が明らかに。
第8章 近代的理性の批判
・フロイトとユングは同じものを見ていたのに、両者の見え方は異なっている。精神分析学は、自分の経験や視点に基づいて事物について語るが、同じことを経験しても人によって物語が異なる、ナラティブを争う学問。
第9章 ヒューマニズム(人道主義)
・「ラッセルのパラドックス」。聖書にある「クレタ人は噓つきだとクレタ人は言った」という自己言及命題。解が出てこない。AIにおいても判断ができないという意味で重要さを増している。
第10章 脱近代主義(ポストモダニズム)思想
・ソシュールの構造言語学、「思想の違いとは、言語の違いに過ぎない」。そこから価値相対主義が生まれ、思想の違いは言葉の結びつきの違いでしかないという発想、「差異の体系」。ヘーゲルの思想に由来。
・差異を別の表現でいえば「趣味」に。趣味は互いに認め合わなければならない。「差異の体系」とは「互いが認めあう」という複数主義、多元主義。
第11章 多様な現代思想
・「食う側」としての日本。世界中の人が今の日本人と同じ食生活を送るようになれば、世界のエネルギー消費はどうなるか。ある種の分野に関して、人々の潜在能力を顕在化させずに永久に潜在能力のまま留めておく必要。リアリズムで考えた場合、「食われる側」にならないための生存戦略が必要に。
〇悲しい現実と対する際の、拠り所となるのが哲学なのでしょうか。
対談
・一種の逆説だが、外付けメモリーが大きく便利になるほど、外付け装置に頼らないで運用できる人間が強くなる。
〇人間力が試される時代。
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