中途採用者におけるメンター制度の活用
雇用の流動化が高まる中、転職は珍しくなくなってきました。また、少子高齢化の時代において、新卒採用と同時に中途採用も活発になってきています。ですが、中途採用者の定着に悩む声も聞こえてきます。採用に力を入れることはもちろん、採用後、中途採用者の方にいかにして会社に馴染んでもらえるのかを考えることも必要です。
中途採用者が苦労する3つの課題
中途採用者の方が直面する課題は大きくまとめると3つあります。それは、「即戦力ラベル」「希薄な横のつながり」「アンラーニング」の3つです。
「即戦力ラベル」
中途採用者の方は、仕事ができて当り前、という周囲の期待にさらされます。いわゆる「即戦力」という社会的ラベルを貼られた状態です。時には「お手並み拝見」などという少し意地悪な見方をしてしまう場合もあるかもしれません。また、中途採用者自身も、「期待に応えたい」「早く結果を出したい」というプレッシャーを感じつつ仕事をしています。
ですが、例えば前職と同じ職種だとしても、会社にはそれぞれ「色」があり、組織文化の違いに戸惑うことは少なくないかもしれません。新卒入社の方なら、分からないことがあって当然ですから、周囲の先輩たちも「分からないことがあったら何でも聞いてね」と気軽に質問できる環境を用意してくれているのですが、中途採用者の方が「即戦力ラベル」の存在を感じてしまうと、「そんなことも知らないの!?」などと言われてしまうのが嫌で、聞けば一瞬で分かることも、自分で調べようと頑張ってしまうということもあるようです。
また、周囲の人も、決して嫌がらせをしているわけではないのですが、「教えるのはかえって失礼だな」「プライドを傷つけないようにしないとな」などと、中途の方に遠慮し、教えることを躊躇してしまうという面もあります。
「希薄な横のつながり」
新卒入社の方と違い、中途採用者には「同期」がいません。新卒の方は、仮に先輩に聞きづらくても、同期に質問できれば何とかなる、という面もあります。また、新卒入社の方には手厚い新人研修を通じて同期感が醸成され、辛いことがあったとしても、SNSなどを通じたネットワークが心の拠り所になることが多いようです。
しかし、中途採用者の方はそうもいきません。そもそも中途の方に対する教育施策をどうするか、ということが昨今求められていますが、中途採用者のネットワークづくりにも課題感を感じている会社も少なくないようです。
「アンラーニング」
中途採用者の方は、前職での経験を活かして頑張ろう、という気持ちで入社してきています。採用側の会社としても、前職の強みに魅力を感じたからこそ採用した側面もあります。ですが、先ほども触れた「組織文化の違い」から、今までの経験をそのまま活かすことが難しい場合もあるようです。
そこで、以前のやり方を一度見直すこと、すなわち「アンラーニング」することが大事になってきます。アンラーニングは、日本語で言うと「学習棄却」と訳されることもありますが、棄てる、というのは、中途採用者の方にとっても受け入れがたい言葉だと思います。ですから、棄てるのではなく、「学びほぐす」という言葉をお勧めします。イメージとしては、今まで培ってきた知識や経験が詰まった毛糸玉をもみほぐして、そこにできたすき間に新しい知識や文化を入れていくというものです。
メンターによる中途採用者への支援
ある中途採用の方へのインタビュー調査では、
・中途採用者が成果を出すためには社員との信頼関係が重要だが、信頼関係を構築するためには成果が重要だという「因果のねじれ」が生じている。
・高いパフォーマンスを発揮するための仕事の「know how」を得るために、まずは「know who」が必要。
というものがあります(尾形真実哉「中途採用人材を活かすマネジメント」)。
この、誰が何を知っているか(who knows what)がわからないのが、新卒社員はもとより、中途採用者の方が困ることの一つです。この悩みを解消するための方法として、中途採用者へのメンター制度活用が有効になり得ます。メンターを通じて社内人脈を増やし、信頼関係を構築することができれば、仕事の成果に繋がります。また、同時期における中途採用者が複数いるのであれば、中途採用者同士の研修の実施はネットワークづくりのために有意義なものになります。研修には、既存社員との対話の場を設けるのもよいでしょう。
直属の上司の精神支援がカギを握る。
中途メンターがいてくれることで、社内人脈の形成がやりやすくなり、中途採用者の方の負担は減りますが、中途採用者の心の拠り所はやはり直属の上司の精神支援です。周囲に受け入れられるのはもちろん大切ですが、「上司がキチンと見てくれている」という実感があってこそ、会社に馴染むことができます。ですから、中途メンターをつけるのであれば、中途採用者とメンター、メンターと上司の連携も必要になってきます。
ただ、上司が中途採用者に過剰に期待をするが故に、フィードバックや指導を行うほど、中途採用者の「貢献実感」に負の影響(「そんなに信用されていないのかな」「頼りないのかな」など)を及ぼすという側面もあるので注意が必要です。その点も踏まえて、上司など受け入れ側に対する教育も有効です。
以上、中途採用者の定着に有効な施策、
・メンターなどの支援制度を活用して周囲との信頼構築を支援する
・上司の精神支援の重要さを研修等で伝え、メンターとの連携を図る
という大きく二つの施策をお伝えしました。皆さんの会社において、中途採用者の方が働きやすい環境を作る際の参考になれば幸いです。