脳は世界をどう見ているのか

脳は世界をどう見ているのか

ジェフ・ホーキンス

第1部 脳についての新しい理解

・神経学者に尋ねたらほぼ全員がまだ何もわかっていないと認める。脳について膨大な量の知識と事実がわかっているが、全体の仕組みはほとんど理解できていない。

第1章 古い脳と新しい脳

・脳は時間をかけて、古い部位に加えて新しい部位を進化させ、複雑な振舞いができるように。足し算による成長の手法は、とりわけ複雑な動物の脳に当てはまる。(中略)どれだけ賢く高機能でも、呼吸、飲食、セックス、反射反応は、生存にとっていまだに不可欠。

・脳の新皮質と古い脳は神経線維によって繋がっているので、全く別の器官だとは考えられない。(中略)新皮質は行動を直接制御するわけではない不当な立場にある。(中略)古い脳と新しい脳の(制御権を巡る)闘いは本書の根源的なテーマ。

・情報は「感覚野」経由で新皮質に入り、領域の階層を上がったり下がったりして最終的に「運動野」に下りると信じられていた。(中略)今ある証拠は、新皮質のあらゆる場所に見られる複雑な回路は、感覚運動タスクを行うことを示している。純粋な運動野・感覚野はない。

第2章 ヴァーノン・マウントキャッスルのすばらしい発想

・ダーゥインは、生命の多様性は一つの基本アルゴリズムのなせる業だと提案。マウントキャッスルは、知能の多様性も一つの基本アルゴリズムのなせる業と提案。

・皮質アルゴリズムの場所に関してのマウントキャッスルの提案、「新皮質の基本単位、知能の単位は、『皮質のコラム(柱状構造)』」。

・人間は進化圧力のない様々なことができる。(中略)脳は汎用の学習方法に頼っている。事実上どんな事でも学習可能であるためには、脳が普遍の原理に基づいて働く必要。

第3章 頭のなかの世界モデル

・脳は予測モデルをつくる。脳は入力が何かを絶えず予測するという意味。(中略)脳の予測が正しいと証明されたときは、脳が持つ世界のモデルが正確だということ。予測が間違っていたら、その誤りに注意を向けて、モデルを更新する。

第4章 脳がその秘密を明かす

・樹状突起活動電位は、細胞体に活動電位を発生させられるほど強くないのなら何の役に立つのか。AIの研究者はそういう活動電位を生じない模造ニューロンを使用。

・予測が起こるのは、ニューロンがパターンを認識し、樹状突起活動電位を発生し、他のニューロンより早く活動電位を発生する準備が整ったとき。(中略)予測は新皮質を構成するニューロンに組み込まれている。

第5章 脳のなかの地図

・海馬と嗅内皮質にあるものに相当するニューロンが、新皮質にあるのかもしれないと気づいた。新皮質の場所細胞と新皮質の格子細胞は、古い脳内の場所細胞と格子細胞が環境のモデルを学習するのと似たような方法で物体のモデルを学習する。

・あらゆる皮質コラムが物体のモデルを学習すると提案。(中略)各皮質コラムには格子細胞に相当する細胞セットと、場所細胞に相当する別のセットと、頭方位細胞に相当する別のセットがあるということ。

第6章 概念、言語、高度な思考

・すべての知識は座標系内に保存される⇒①座標系は新皮質の至る所に存在、②座標系は物体だけでなく知っていること全てをモデル化するのに使用、③すべての知識は座標系に対する位置に保存、④考えることは一種の動き。

・入れ子と再帰の構造は言語だけのものではなく、世界のあらゆるものがそういう構造に。

・皮質コラムそれぞれが入れ子と再帰の構造を学習。

・皮質コラムは知っているあらゆる対象の座標系をつくり出し、その後他の座標系のリンクが追加される。脳は追加分も含めた座標系を使って世界をモデル化。

・座標系は世界の構造(事物がどこにあるか、どう動いて変化するか)を学習するための基盤に。直接感知できる物体だけでなく、見たり感じたりできない対象や、物理的形状を持たない概念も学習する基盤に。

第7章 知能の1000の脳理論

・モデルが何千もある中、知覚が一つである理由。(中略)知覚はコラムが投票によって辿り着いた合意。

・皮質コラムの投票は統合問題を解決する。そのお陰で脳は膨大な種類の感覚入力を、感じられているものの単一の表現に統合することができる。

・物体を認識するということは、コラムが投票し、感知している物体が何かについて合意に達しているということ。各コラムで投票するニューロンは、その物体とそれがどこにあるかを表わす安定したパターンを形成。

・何を知覚するかは安定した投票ニューロンに基づいており、情報は、脳の他の部位にもあまねく広げられ、言語に変換されたり、短期記憶に保存されたりする可能性が。各コラム内の変化する活動を意識しないのは、活動はコラム内に留まり、脳の他の部分にはアクセスできないから。

・投票を司るニューロンを見ているのなら、細胞の98%は静かで、2%が次々と発火しているのが見える。皮質コラム内の他の細胞の活動は、変化する入力と共に変化。投票するニューロンの重要性を見落としやすい。

第2部 機械の知能

・ほとんどの科学的進歩は広く認められた理論的枠組みに基づいており、その枠組みを科学的パラダイムと呼ぶ。たまに確立されたパラダイムがひっくり返され、新しいパラダイムに取って代わられる - トーマス・クーンが科学的革命と呼んだもの。

・AIの将来的な用途がどうなるかはわからないが、パソコンが携帯型装置に移行したのと同じように、AIが脳に基づく原理に移行するのは不可避だと見ている。

第8章 なぜAIに「I」はないのか

・AI研究の長期的な目標は、人間のような知能を示す機械 - 新しい課題を素早く学習し、異なる課題感の類似性を理解し、新しい問題を柔軟に解決できる機械 - をつくること。現在の限定的なAIと区別するために「汎用人工知能(AGI)」と呼ばれる。

・ほとんどのロボット研究者はAGIに無関心であり、AI研究者は座標系の重要性に気付いていない。(中略)AI研究者がAGI開発にとって不可欠な動きと座標系の役割を理解すれば、人工知能とロボット工学の区別は消える。

・チェスのような特定の課題のために設計された座標系は、他の領域では役に立たない。汎用の知能には、さまざまな種類の問題に応用できる汎用の座標系が必要。

第9章 機械に意識があるのはどういう時か

・「クオリア」は、感覚入力がどう知覚されるか、どう感じられるかを表す言葉。クオリアは不可解。全ての感覚が同じ活動電位によって生成されるなら、なぜ、見ることと触れることは違う感覚なのか。

・消防車の赤さは脳のでっち上げ。脳が持つ消防車の表面のモデルの属性であって、光そのものの属性ではない。

・恐怖と感情は、古い脳内のニューロンがホルモンなどの化学物質を体内に放出する時に生み出される。(中略)古い脳がなければ、恐怖や悲しみを感じない。死への恐怖や喪失の悲しみは、機械が意識や知能を持つのに必要な材料ではない。

第10章 機械知能の未来

・行動を導く感情は、古い脳によって決まる。(中略)地図と同じように、世界モデルは特定の目標(攻撃、情け深さ、商売・・・)に適しているかもしれないが、新皮質は目標を生み出さない。

○人次第。

・エネルギーを節約するのに、脳は配線を制限し、ひいてはすぐに学習できるものを制限せざるを得ない。生後の新皮質には過剰な配線があるが、2、3年の間にかなり減らされていく。使われない配線の削除のデメリットは、人生で後に新しいタイプの知識を学習しにくくなる。

・脳内の物理的配線と違い、新皮質のソフトウェアならあらゆる接続を(すぐに)形成。柔軟な接続性が、生物学的知能に対する機械知能の大きなメリットの一つ。

第11章 機械知能による人類存亡のリスク

(機械知能のリスクについて)今のところ最善の選択肢は、化学兵器の扱いと同じように、容認できることとできないことに関して、強制力のある国際的な協定を結ぶよう、真剣に努力すること。

第3部 人間の知能

第12章 誤った信念

・嘘と真実を区別する方法、世界モデルに誤りがあるかどうかを確認する方法は、自分の信念と矛盾する証拠を積極的に探すこと。(中略)反証できることは、頭のなかのモデルは正しくないので修正する必要。科学的手法。真実に近づくための唯一のアプローチ。

・新皮質は自分の世界モデルを試すために、常に予測をしているので、モデルは元々自己修正している。脳そのものは、より正確な世界モデルに向かって否応なく進んでいく。しかし地球規模では、このプロセスがウイルス性の誤った信念によって阻止される。

○誹謗中傷もこの類に入るのでしょう。

第13章 人間の知能による人類存亡のリスク

・古い脳自体は人類存亡のリスクにならず、その行動は上手な適応。(中略)現在、古い脳が脅威となるのは、新皮質が、地球全体を変えるどころか破壊さえしかねないテクノロジーと組み合わさって、人類にとって存亡の危機に。

・意図的に人口減少を目指すことについて検討されることはめったにない。現在の日本のように、国の人口が減っているとそれは経済危機と見なされる。日本の人口減少が世界のロールモデルとして語られることはほとんどない。

○長期的に見れば人口爆発はよろしくない中、短期的に見れば「危機」。フランスみたいにスピードを緩めることができれば、先々はロールモデルになるのかも。古い脳に打ち勝つのは難しいです。

第14章 脳と機械の融合

・(コンピューターに)「あなたの脳をアップロードする」というのは誤解を招く表現。実際には、自分を二人の人間に分裂させたということ。

○クレヨンしんちゃんの「ロボとーちゃん」はまさにそうでしたね。名作でした。思い出すと泣けてきます・・・。

第15章 人類の遺産計画

・相当数の人が、「地球外生命体へのメッセージ送信(METI)」は最悪の考えだと思っている。進歩した生命体に存在を知らせることによって消される運命に、と。起業家が良く犯すミス。秘密主義になるより、自分がやっていることを人に話す方が、成功する可能性がはるかに高い。

○起業家である著者だからこそ言える含蓄のある言葉に納得です。

第16章 遺伝子 VS. 知識

・新皮質に存在する知能による私たち自身のモデルは、無知なけだものである古い脳の支配下にある、体の中に閉じ込められている。(中略)地球上の多くの国々がいまだに、財産欲、性欲、支配欲という、主に古い脳が決める動機を持つ専制君主や独裁者に治められている。

・私たちの絶滅を防ぐためにすすめられる3つの手法。「多惑星種になる」「遺伝子を組み替える」「人間に依存しない知的機械をつくる」。

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