【11-1studio】砂越陽介さん

板橋区の起業家インタビュー、第5回目は、南町で11-1 studio(じゅういちのいちすたじお)を営む、砂越陽介さんです。

砂越さんは、一級建築士として2020年4月に独立、その後、2020年9月に11-1studioをオープンしました。スタジオには町Cō場という作業場があり、砂越さんを紹介してくれた会いに行ける家具職人サイト―さんもこちらを利用してワークショップを行うこともあるそうです。

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ー砂越さんは大学院を卒業後、スペインにいらしたんですね。

砂越さん:はい。最初はインターンとしていくつもりだったのですがタイミングが合わず、院卒後の1年間のインターバルの後に行くことになりました。自分は「公共空間」に興味があったのですが、街中の広場や市場などに自然と公共空間が根付いてきたヨーロッパ、そのなかでも作品に強く共感を覚えた設計事務所がスペインにあり、そこで学んでみたいと思ったんです。

ー1年間は準備期間?

砂越さん:1年の間に一級建築士の資格を取り、同時にスペイン語の習得を目指しました。

ーすごい!スペイン語がペラペラなんですね。

砂越さん:いえいえ(笑)。ただ、現地で実際に使うことが話せるようになる近道でしたね。

砂越さん:スペインで1年間学び、帰国後はやはり公共に強い事務所を選んで就職。1年後に別の事務所に移籍し、そこでは3年間勤務しました。

ーその後、こちらで独立されたんですね。

砂越さん:はい。建築設計をやっている人だと、自分の事務所を開くのは割と自然なことです。経験を積んだ上で、その後に独立することが多いですね。私も、大学院にいるころから先々の独立を見据えて勤める事務所を探していました。

ーそれがスペインだったというのはすごい行動力ですね。

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ーこの場所は元々はおじいさんが営んでいたアイロン台工場だったんですよね。

砂越さん:はい。工場自体は10年ほど前に廃業しているのですが、それから5年ほどは祖父がモノ作りの場として使用していました。仏像などを作っていましたね。この場所で独立しよう、というのは当初から考えていました。

―最初から今の業態で行こうと思っていたのですか。

砂越さん:いえ、実は、「地域に開くイメージ」はなかったんです。この辺りは昔からの『町工場街』なんですが、人の活動が見える街って魅力的だな、というのは常々思っていました。祖父の工場もそうですが、時代と共に縮小していくのを見ていて寂しい気持ちもありましたが、自分がどうこうできるものだとも思っていませんでしたし。

ーどのように「11-1studio」が生まれたんですか。

砂越さん:独立する前に、「Startup Hub Tokyo 丸の内」(※東京都の政策連携団体である東京都中小企業振興公社が運営)の起業塾に参加しました。そこでは、自分にとっての「Like」と「Pain」を考えさせてもらったんです。自分にとってのペイン(痛み)は何だろう。そう考えた時、身近な町工場街が廃れていくことだと気づきました。ただ、後継者の問題や事業承継問題は自分では解決できないですよね。これは大きなジレンマでした。

砂越さん:対して「ライク」を考えた時、設計者として自分にできることは何だろうと考えました。辿りついたのが「町工場街の中に交流できる場を作りたい」だったんです。

ー11-1studioのコンセプト”職人街と商店街をつなぐ文化活動拠点”ですね。

砂越さん:そうです。さまざまな職人さんが気軽に出入りできる場所、近所の工場との連携拠点だったり、時にはカフェでくつろぎながら、人と人の交流が生まれる場所としての11-1studioの構想が浮かんできました。

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ー皆さんが驚かれるのが、工具の豊富さですが、砂越さんはこれらの工具を使うことはありますか。

砂越さん:工場を整理していた時に次から次へと工具が出てきて正直「どうしよう」と思ったくらいです(苦笑)。でも、自分の「ライク」のためにシェア工房を運営するなら自分でも工具を使えなくちゃ、とスタジオの整備の際にいくつかDIYを試みました。(笑)おかげさまで、少しは扱えるようになりました。

―おじいさんの血でしょうね(笑)。

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ー設計事務所を開くことは「起業」とは違う?

砂越さん:先ほども言ったように、事務所を開くのはわりと自然なことなんです。ですから、起業というよりは「独立」という方がしっくりきます。ただ、この場所を開くことは「起業」でしょうね。

ー設計にプラスアルファが起業、ということなんですね。砂越さんにとって、起業を一言で言うと。

砂越さん:「新しい仕事を発明する」ことだと思います。建築設計の場合、「新しい」とは言っても自己表現の部分での話が多いんです。ですが11-1studioは、設計作品というより『ものづくりを介した交流拠点』という一つ新しいあり方を作っている点が「起業」ではないかと。公共空間であり、人と人が出会ってネットワークが形成され、新しい仕事が生まれる場所になれば良いと思っています。

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ー砂越さんが考える「自律型人材」とはどのようなものでしょう。

砂越さん:自分が勤めていた時の事を思い出すと、社会人一年目の時は今思えば受け身でした。でも、それには気づけなかったです。例えていうなら、ジェットコースターの最後列席のように、どこに進むか、何が起きるか、全く分からないような感覚に似ていましたね。その後、経験を積み、部下や後輩の面倒を見る立場になってはじめて自分から動けるようになれました。それを思えば、いきなり自律型人材を求めるのは酷なのかもしれません。

砂越さん:先ほど経歴をお話しした時には端折ってしまったのですが、実は前職の設計事務所に勤める前のほんの一時期、施工管理側の会社にいたことがあります。施工管理は設計事務所とは本当に対極です。設計事務所が簡単に描いた図面を「こんなんどうやって施工すんだよ」って言いながら現実的な施工方法を探って実行する。空間が良いとか悪いとかの概念はなく、明日までに職人を何人入れてここまで終わらせるとか、お金がいくらオーバーしてるからどうするかとか、そんな世界。

ー職人さんと設計士さんの対立、とまでは言いませんが、わかります(苦笑)。

砂越さん:ただ、逆の世界から見たことで、それまで切れていた別の世界が一つにつながったと言いますか、設計に戻った時に、作り方とか処理の仕方とかの道順が想像付くようになりました。別の言い方をすると、作る側の苦労や手間が分かったので、そこに対して実感を持って臨めるようになったという感じですね。

砂越さん:これまでの経験を踏まえて考えると、何かを作ろうとするとき、もしくは処理しようとするときに、その道順がすぐ頭に浮かぶ人、たとえ直接そのやり方を知らなくてもどう調べたら良いかがわかる人が「自律型人材」かなと思います。

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「対話型OJT」を献本させていただきました。

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インタビュアーの林(ラーンフォレスト合同会社 代表社員)は、上記の「対話型OJT」をもとにした、新人の適応を促す「上手な仕事の教え方」を研修にてお伝えしています。

新しい価値を生み出していきたいと言う砂越さん。町工場街を盛り上げる原動力になっていくのだろうな、と思いました。

砂越さん、ありがとうございました!

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