【よし邑】川口徹さん
板橋区の起業家インタビュー、第21回目は、「株式会社タニタハウジングウェア」の谷田さんにご紹介いただいた「よし邑」の代表取締役、川口徹さんにお話を伺いました。
前回のインタビューでお世話になった平岩さんとの顔合わせの際に会食したのがこの「よし邑」さん。板橋区では知る人ぞ知る和の名店。ウォーキングの際に通り過ぎながら、一度行ってみたいなあと思っていた憧れのお店でした。
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-川口さんは二代目なんですね。
川口さん:はい。幼少期からずっと周囲に「二代目」と言われていたと記憶に残っています。そのように言われることで少し違和感を感じていました。「なぜ、レールに乗らなくてはいけないのか」と思っていました。しかし幸いにも、両親は、私にお店を継ぐことに関して触れたことは一度もありませんでした。そういったことよりも、例えば信頼を得ることの大切さなど、違った方向での二代目を意識していたと思います。
川口さん:父は週に2,3度、築地への仕入れに小学校低学年の私を連れて行っておりました。その当時のことでよく覚えているのが、築地が車で渋滞していることです。そのため市場の中まで車を乗り入れられず、新橋周辺に駐車し、築地まで徒歩でした。それがいつからか、市場の中に駐車可能となりました。市場の中に駐車可能になるということは、父が市場から信頼を得たということを意味します。この様に、言葉による二代目ではなく、もっと深い意味での二代目を教えられていたのだと今になって思います。
-信用を得ることで車を中に停められるんですね。市場はどんな様子だったんですか。
川口さん:とにかく活気がありました。「ターレ(小回りが利く3輪の運搬車)」があちこち走り回って、大声が聞こえ、すごい迫力でした。
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-「なぜレールに」と言っていましたが、いつ頃お店を継いだのですか。
川口さん:43才の時です。お店に入社したのは、28才でした。
-お店に入社するまでの経歴を教えてください。
川口さん:高校・大学生の頃から飲食のアルバイトをしていました。飲食のアルバイト以外に興味がなかったのかもしれません。
川口さん:大学卒業後、何がやりたいという明確な思いはなかったんです。学生時代から家族で海外旅行に行ったり、また、父が元々海外旅行好きなのもあり、「海外に行きたい」と両親に相談しました。二つ返事で「良いよ」と。寛容な両親でしたね。その時、「俺も行きたかった」という父の言葉が耳に残っています。「やりたいことは出来るときにやらないと出来なくなるよ」と。
-だからこそ、自由にさせてくれたんですね。
川口さん:まずはワーホリ(working holiday)でオーストラリアに一年間行きました。波乗りが好きだったというのもあったので。その時、もっと英語を学びたいと思い始めました。帰国後、もっと色んな国を知りたい、世界を知りたいという思いが強くなりました。
川口さん:アルバイトをしてお金を貯めて、40カ国以上周りました。大陸は南極以外は全て踏み入れました。
-色々な思い出があると思いますが、特に思い出に残っているものを教えてください。
川口さん:イタリアでの少年との会話です。その子の父親は漁師(フィッシャーマン)だったのですが「かっこいい!自分もなるんだ!」と目を輝かせて言うんです。素直な気持ちに感動しました。
川口さん:さまざまな国から日本を俯瞰しましたが、日本は良い国だと実感することができました。客観的に見ながら、外に誇れるべき日本の文化を発信したいと思ったのが、お店を継ごうという思いに繋がりました。
-和食は正に日本の文化ですものね。
-先代のお話を聞かせてください。
川口さん:先代は52年前、服部セイコーから脱サラしてよし邑を創業しました。皆さんもご存知の通り、服部セイコーは時計の会社ですから、とにかく時間に厳しい人でした。例えば、業者さんが合見積りでよい条件を提示していても、1分の遅刻でバッサリ。そこは徹底していました。自分の苦い記憶があったからだそうなんです。
-苦い記憶・・・?
川口さん:前職の服部セイコー時代、お客さまとの約束に1分間遅刻してしまったそうです。その時、「遅刻するやつの会社の時計はいらない」と言われたことが相当こたえたそうです。
-育成についてのお考えを教えてください。
川口さん:育成内容は、調理場の教育は料理長に任せているのですが、ホールについては私が全般的に見ています。研修は、入社後3日間ほど、1日2時間くらいを割いてたしなみなどを伝えています。マニュアルの朗読や、敬語、和室での所作、などです。こういったスキルは時間をかければ上達しますが、スキル以上に大事なのは「気持ち」だと思います。お客さまに楽しんでもらいたい、喜んでもらいたいという根本的な気持ちを大切にして欲しいと伝えています。更に言うと、自分本位ではなく、お客さまに対して、相手本位になってほしいと伝えています。
川口さん:しかしながら、これだけの気持ちで臨みましても、クレームをいただいてしまうこともあります。そのような際には、お客さまの対応ももちろんのこと、スタッフの気持ちもケアしながら1対1で伝えるようにしています。とはいえ、人の気持ちが絡みますから、お客様ありきは当然のこと、スタッフ同士も相手本位の「思いやり」を持って過ごしてほしいですね。私もまだまだですので、スタッフの育成と共に私も育成され続けます(笑)。
-研修で心掛けていることを教えてください。
川口さん:飲食の経験者か未経験者かで、それぞれに合わせて伝えるようにしています。経験者には相手のレベルを確認しながら。初心者には1から10まで丁寧に教えるようにしています。こちらが伝えることをしっかりと理解しようとしている姿勢は伝わります。試用期間は2カ月間ですが、まれにそうでない方の場合にはお引き取り願うこともありました。研修を行う身とすれば、相手に興味を持たせることができなかったというように、研修者により良い状況を引き出せなかった場合には、自分自身にも反省を課すよう心掛けています。
-川口さんが思う自律型人材とはどんな人でしょうか。
川口さん:自分で考えようとする人です。どうしたら良いか。どうしたらできるか考える。できないとは言わないですね。起業家でできないという人はいませんから。
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-最後に、これから起業を目指す若者にメッセージをお願いします。
川口さん:常に感謝を忘れず、五感をフル活用できるように行動できたらよいですね。それができると物事の見え方が変わります。人間は偏るものです。また、都会生活で退化しています。もともとは農耕民族ですから、五感で自然を感じること。水を飲むという行為にしても、感じ方はそれぞれです。一言でいえば「野生児になれ!」ですね。
インタビュアーの林(ラーンフォレスト合同会社 代表社員)は、上記の「対話型OJT」をもとにした、新人の適応を促す「上手な仕事の教え方」を研修にてお伝えしています。
スタッフさんとは「親子のように」「兄妹のように」接している川口さん。普段の雑談の様子から、お店のアットホームな空気感が伝わってきます。それが接客の良さに繋がっているのだと思います。
川口さん、どうもありがとうございました!
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