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正直シグナル-非言語コミュニケーションの科学
アレックス(サンディ)・ペントランド

【プロローグ 神の視座】

<本書について>

・人間の行動のタイプには、生物学的基盤をもつ正直シグナリング行動から、かなり確実に予測できるものが多いことがわかった。同調やまねや強調の量、活動レベルといった、大昔からの霊長類のこうしたシグナリング・メカニズムが、人間のあいだに無意識のコミュニケーションのチャンネルを形作っている。ところが、このチャンネルは類人猿を除けば、ほとんど調査されていない(Pentland2007c)。

<本書のプラン>

・動物の行動の研究を見ると、動物はシグナルでコミュニケーションをすることがわかる。なかでもとくに興味深いのが、正直シグナルだ。正直シグナルは、とても代償の大きい行動や、根本的な生理作用と直接結びついた行動で、偽りの入り込む余地がないので、他者が自分の行動を決めるための指標として信頼できる。

【第一章 正直シグナル】

<行動の「薄切り」>

・何十年にもわたる社会心理学の研究によって、人間には、互いに相手の心を読む驚くべき能力があることがわかっている。(中略)人間は観察データの「薄切り」だけに基いて判断を下し、その後の行動をうまく予測できるのだ。「薄切り」という言葉は、ナリニ・アンバディとロバート・ローゼンタールの論文に由来する。頻繁に引用されるこの論文では、実験参加者(被験者)は、授業中の教師を撮影した三十秒の音声のないビデオの評価をした(Ambady and Rosenthal1993;Allport1937;Funder and Colvin1988;Gladwell2005;Goffman1979)。その後の分析で、このような短い評価によって、学期末の学生による教師の授業評価を予測できることがわかった。彼らの研究は、就職面接での同様の予測力を発見した研究に基づいていて(Wright1969)、その研究によると、最終的に採用決定をする際には、第一印象が重要ということだった(Webster and Anderson1964)。

○「薄切り」。ちょっと見ただけで判断してしまうと、とは思うけど、意外と正解だったりする。第一印象は大事です。

・多くの状況で、そのほかの非言語的な(そして、しばしば無意識の)社会的シグナル(たとえば、ボディランゲージ、顔の表情、声の調子)は、行動の結果を予測するうえで、意識された言語的内容と同じぐらい重要だ(Ambady and Rosenthal1992;Nass and Brave2004)。そのような無意識の非言語行動はもともと、グルーミングや優位性のディスプレイやそれに類似した社会的シグナルとして進化したのかもしれないけれど、現在も、人間の言語を補完するものとして存在しつづけている(Dunbar1996;Provine2001)。

<社会的シグナルを測る-ソシオメーター>

・現在のソシオメーターの主な機能は以下のとおりだ。「赤外線センサーで対面の相互作用を感知して、使用者がどれだけの時間、対面して話しているかを判断する」「発話の特性を分析して、非言語の社会的シグナルを測定し、社会的文脈を固定する」「体の動きを測定して人間の一般的な日常の活動を知る」「室内で使用者を追跡してその位置を突き止める」「携帯電話やコンピューターと交信し、さまざまな使用者からの情報を送受信してデータ処理をする」「ほかの人との物理的距離を測定する」

<社会的相互作用のための新しい解釈の枠組み>

・社会的相互作用は従来、二つの異なる枠組みで取り上げられてきた。一つは認知心理学に由来し、主に情動に焦点を絞る。人間は、顔の表情、声の調子などのお決まりのディスプレイを通して他人の感情に気づくというのが、カギとなる考え方だ。

・社会的相互作用を理解するための二つ目の枠組みは、言語学に由来する。対話を理解するという観点から社会的相互作用に取り組むので、音声の韻律や身ぶりが、最上のコミュニケーション・シグナルとしてではなく、言語情報の注釈として扱われる。

・本書はこの二つとは別の、第三の解釈の枠組み、すなわち正直シグナリングを詳しく説明する。この枠組のなかでは、話し手の態度あるいは意図が、韻律と身ぶりの大きさや頻度の変化のような無意識の行動を通じて伝わる。この枠組は動物のコミュニケーション(Zahavi and Zahavi1997;Godfray and Johnstone2000;Bird,Smith,and Bird2001)や社会心理学(Chartrand and Bargh1999;Ambady and Rosenthal1992)の文献に基づいており、社会的状況についての非言語的な無意識のシグナルに重点を置くという点で、言語的な枠組みとは違う。同様に、話し手の感情ではなく社会的関係に注目すると言う点で、感情に基づく枠組みとも違う。正直シグナルは対話の内容ではなく、人間のあいだの関係を伝えるからだ。

・正直シグナルはコミュニケーションの独立したチャンネルを構成する。

<人間の正直シグナルとは?>

・会話で話者交代したり、身ぶりをしたりする様子を見守り、タイミングやエネルギー、相互作用の変動性を注意深く測定すると、正直シグナルの例がいくつか見つかる。ここで焦点を絞るのは、以下の4つだ。

影響力 社会的相互作用のなかで、各自が別の人に与える影響の大きさ。影響力は、一方が相手の発話のパターンを自分の発話のパターンにどれだけ合わせるかで測定する。

ミミクリ 会話のあいだ、人がほかの人を反射的になぞること。ミミクリの結果、無意識のうちに交互に微笑んだり、相槌を打ったり、うなずいたりする。

活動レベル 活動レベルが上がるのは、普通、関心をもったときや興奮したときだ。子どもを見ていれば、活動レベルと興奮の結びつきが見て取れるだろう。あるいは、オランウータンのオスが交尾相手の候補を感心させるために、枝を揺するところからもうかがわれる、

一貫性 多くの考えや感情が同時に頭の中で渦巻いていると、言っていることばかりか動きさえぎこちなくなり、アクセントやペースにむらが出る。強調やタイミングの一貫性は、精神が集中しているというシグナルで、逆に、変動性は他人からの影響に寛容であるというシグナルになりうる。

・これらのシグナルのそれぞれは、私たちの脳の構造と生物学的仕組みに根差している。だから、私たちの行動の傾向のシグナルとしても信頼できるのだろう。

・ミミクリは大脳皮質のミラーニューロンの働きによるものだろうと考えられている。ミラーニューロンは分散型の脳構造で、霊長類に特有らしく、人間で際立っている(Rizzolatti and Craighero2004;Iacoboni and Mazziotta2007)。ミラーニューロンはほかの人の行動に反応し、人と人のあいだに直接のフィードバック経路を提供する。たとえば、新生児は一般に筋肉運動の協調能力を欠いているにもかかわらず、親の表情をまねられる。脳の運動皮質のうち、顔をコントロールする部位にあるミラーニューロンが、この驚くべき能力のカギかもしれない。

○相手をまねるとだんだんお互いに好きになる。これ、わかっていてやっていてもその効果はあります。新生児が親をまねる、大好きな親をまねる。これ、なんか感動します!

・人間が示す正直シグナルは、この四つだけではない。たとえば、ロバート・プロヴァインは、笑いがミミクリと似た、大昔からのシグナルであることを示した。誰かが笑うと、その笑いをまねる反射作用は自動的なので、たとえ、笑うのがふさわしくないときにさえ、笑わないのが難しいことが多い。

<社会的シグナルの定量化>

・四つのタイプの社会的シグナル、すなわち影響力、ミミクリ、活動レベル、一貫性だ。(これらの用語が私たちの以前の論文から発展したことに留意してほしい。以前は、一貫性ではなくてストレス、影響力でなくて関与と言っていた。)

<影響力>

・会話で影響力が見られる典型的な例は、目上の人にひどく絞られる経験だろう。想像してほしい。あなたが学校の生徒で、遅刻して教室に潜り込もうとしたところを先生に見つかったとしよう。さあ、どうなるだろう?先生は厳しい口調で矢継ぎ早に質問を浴びせかける。(中略)あなたは質問が永遠に終わらないような気がしてくる。まるで床に押さえ込まれ、質問の連射に打ちのめされているようなものだ。だれにも触れられているわけではないのに。(中略)先生は会話のパターンをコントロールしていた。

・影響力が優位性の目印であることはよく知られている(Pendergast1990)。交渉を研究するとかならずわかるのだけれど、一貫して発言権を握っている人はかなりの有利な立場にある。とはいえ、影響力は会話での話者交代のパターン以外にも及ぶ。たとえば、アメリカの大統領選挙の候補者達の討論を分析し、話す時の声の高さ(声の基本的な音質)にだれが影響を与えているかを突き止めれば、当選者が予測できる(Gregory and Galeasher2002)。討論のトーンを決める候補者がいちばん優勢であるとみなされ、有権者はこの優位性のシグナルに反応するというのが、その説明だ。

○話のトーン。実際の音の高低を決めるって、すごく刺さります。共感すれば、確かにトーンが合ってくる。

<ミミクリ>

・私たちは自動的に、無意識のうちにお互いをまねる傾向にある。これは、脳にたっぷりミラーニューロンがあるおかげで起こる行動らしい(Gallese and Goldman1998)。とは言え、無意識のものではあっても、ミミクリ行動は、会話の相手に重要な影響を及ぼす。ミミクリがあると、会話の参加者は相手に対する好感や信頼感を強める。(中略)ミミクリはしばしば、共感を示す無意識のシグナルと言われる。

・給与交渉とセールスのどちらでも、交渉や取引を首尾よく終えるために必要とされる信頼と共感の正直で効果的なシグナルとして、ミミクリが機能することがわかった。とりわけ注目に値するのは、ミミクリという正直シグナルの絶大な効果だ。ミミクリは無意識で自動的であるにもかかわらず、金銭的な成果を二十~三十%改善したのだ。こうした金銭上の相互作用に対するミミクリの影響を前にすると、これまで研究されてきたほかのどんな要因も霞んでしまう。

○何事もそうですが、「好き」ということが一番重要だと思います。

<活動レベル>

・活動レベルは最も単純な尺度で、たいてい、人間が活動している時間を測って定量化する。(中略)これまでの研究によって、発話時間は関心のレベルや外向性と相関関係があることがわかっている。同様に、最近のメタ分析によって、発話時間と個人の優位性のあいだには強い相関関係があることがわかった(Mast2002)。

○よくしゃべる人のほうが優位。たしかにそうですね。だからか、よくしゃべる営業は売れない・・・

・活動レベルはお互いどうしの関心の大切なシグナルの一つであり、それで、連絡先を交換するかどうかを予測できた(Gips and Pentland2006)。盛んに身ぶりを交えながら話している人たちは、その後の二分間で連絡先を交換する確率がとても高かった。彼らがどこのだれかにかかわらず、活動レベルによって、連絡先を交換するかどうかを正確に予測できた。このように、活動レベルは関心の正直シグナルの役割を果たす。

<一貫性>

・脳の高次の中枢から、競合する「命令」がいくつも下りてきて、それぞれが体に異なる種類の動きを求めたときには、滑らかで一貫したかたちで行動する私たちの能力に差し支える。(中略)頭のなかで同時に多くのことが起こっているときには、発話や動きがぎこちなくなり、ペースも乱れる(Verwey and Veltman1996;O’Donnell and Eggemeier1986)。(中略)強調やリズムのこうした変化は、どうしてもコントロールできない。そのため、強調やタイミングの一貫性は、心が集中して滑らかに機能しているという正直シグナルとなる。

・ビジネス・エグゼクティブが(中略)売り込みをしているあいだ、強調とリズムに一貫性があるほど、説得力があった。(中略)一貫性のある人ほど優れたアイデアをもっていて、プレゼンテーションのスタイルも優れていると受け止められたのだ(Stoltzman2006)。

・すでに電話をかけてくるほど関心を持っている潜在的顧客からの、販売についての問い合わせを処理する時には、相手の助けになるように耳を傾けるという穏やかな売り込みのほうが、強引な売り込みに優る。(中略)強調とペースの変動性は、人が他人の提供するものを受け入れる用意があることを示す正直シグナルのようだ。(中略)変動性は他人からのインプットに対する寛容性を伝えるようだ。

・一貫性は精神的な集中と決意の正直シグナルで、一方、変動は競合する精神的プロセスがあることを示し、その人の思考に他人が影響を与えられるかもしれないというシグナルになる。

○変動は、揺れている心を相手に見せていますよ、あなたに対して優位ではないですよ、ということを伝えるのに役立つということでしょうか。お客様が営業マンに対して影響を与えられる、一方的な押しつけじゃない人、つまり話を聴いてくれる人だと思ってくれるということかなあ。

<次のステップ>

・正直シグナルは、偽装するのにとてもコストが掛かるので、信頼できるコミュニケーションのチャンネルの土台を形作ることができる。

○ここが「正直シグナル」の肝だと思います。偽装するのではなく、思っていることを相手に正しく伝えるための手段です。

【第二章 社会的役割】

<社会的役割をシグナルで伝える>

・人間は現実の状況で正直シグナルを単独ではなく組み合わせで使うことがわかる。(中略)私たちが採用する社会的役割はたくさんあるけれど、ここでは打診、傾聴、協調、主導という、四つの中心的な役割に焦点を絞る。

・正直シグナルがどうやって社会的役割を伝えるかを示すために、それぞれの正直シグナルの主な解釈から始めることにする。影響力は注意を、ミミクリは共感的な理解を、活動レベルは関心を、一貫性のある強調は精神的集中と決意を(そして、当然、一貫性のない強調、あるいは変動する強調は影響力に対する寛容性の可能性を)伝えるとしよう。

<打診>

・私たちが相互作用を進めたい、深めたいという関心を伝える、打診の役割の特徴は、(中略)高い活動レベル(関心)と、変化に飛んだ強調とリズム(影響力に対する寛容性)だ。

<能動的傾聴>

・能動的傾聴の役割は、抑制された関心や興奮と、影響力に対する寛容性を特徴とする。こうした抑制や寛容性は、抑制した活動レベルと強調の変動性というシグナリング行動で達成される。

<協調>

・協調という役割は、注意、共感的な理解、集中した思考と目的を組み合わせたディスプレイを特徴とする。従って、このスタイルの行動には、強い影響力、豊富なミミクリ、一貫した強調とリズムが含まれる。

<主導>

・主導の役割にかかわるシグナルは、関心、注意、思考と目的への強い集中の組み合わせを伝える。そのため、主導のディスプレイは、高い活動レベル、高い影響力レベル、強調とリズムの一貫性のかたちで表れる。主導の役割は協調の役割と似ているものの、それに比べると、活動のレベルは高く、共感的なミミクリのレベルは低い。私たちのソシオメーターでは、主導は協調の自然な延長だ。

<次のステップ>

・私たちは、正直シグナルが組み合わさって、打診、傾聴、協調、主導といった社会的役割の特徴となっていることを見てきた。こうした社会的な役割は、話し手の社会的な態度や意図を伝え、相互作用の結果を正確に予測する手がかりになる。実際、人が見せるシグナリングは、ほかのどんな要因よりも大きな影響をもつことがよくある。

・社会的シグナリングは、大昔からあるコミュニケーションのチャンネルで、言語が進化する前から、私たちの祖先が使っていた可能性がある。

【第三章 他人の心を読む】

・ポーカーゲームとまったく同じで、私たちは日常生活でも、社会的シグナルのネットワークのなかにたえずどっぷりと浸かっている。つねにこのシグナルを読み取り、それに応じるためには、莫大なエネルギーが必要になる。ほかの感覚の場合と同様、私たちはこのような自分の名人芸にほとんど気づいていない。普通、私たちの意識に届くのは、相手が注意を払っている、決意を固めている、支援の気持ちをもっているというような印象だけだ。けれど、訓練を積めば、こうしたシグナルに気づけるようになる。ポーカーの勝者と敗者を分けるのも、この能力の差だ。

<戦術的行動>

・大抵の場合、社会的シグナリングを読み取ることさえできれば、次に何が起こるかを正確に予測できる(Pentland2004,2007c)。

<社会的ネットワーク用の回路>

・人間の脳に関する最近の研究によれば、他人の心を即座に読み取って反応できるような「ネットワーキング・ハードウェア」を私たちはみなもっているという。このネットワーキング・ハードウェアのカギとなるのが「ミラーニューロン」で、このミラーニューロンは、読み取った他人の行動を直接脳内のさまざまな部位に届けてくれる(Rizzolatte and Craighero2004,Iacoboni and Mazziotta2007)。そのおかげで、私たちは無意識に相手の身ぶりや声の高さに合わせ、笑い声や笑顔に自動的に反応し、ともに歌ったり踊ったりし、自分たちの行動全般を他の人々の行動に合わせることができる(Gallese and Goldman1998,Tummolini et al.2006)。

・社会的回路がはたらく典型的な例は、気分の伝染だ(Barsade2002)。

・カリスマ性のある人とは、社会的シグナリングを読み取り、それに反応する才能にとくに恵まれている人だというのが、おそらく今までのところ最善の見解だろう(Bono and Ilies2006)。

【第四章 サバイバル・シグナル】

<集団内の社会的役割>

・半世紀近く前、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、職員どうしの協力を促す研修を助け、同時に、ストレス下での意思決定について社会科学者が理解を深められるように、「サバイバル」というチーム訓練を考案した(Hall and Watson2003)。(中略)社会科学者は従来、サバイバル・チームのメンバーを、集団内での役割であるグループ・ロール(攻撃者、主唱者、支援者、中立者など(Bales1970))と任務別での役割であるタスク・ロール(授与者、探求者、中立者、先導者など)という観点から分析してきた。(中略)このグループ・ロールとタスク・ロールの分類法の一つ(ロバート・ベイルズの「相互作用プロセス分析」の一タイプ(Pianesi et al.2007))は、以下のようにまとめられる。

===

~グループ・ロール~

・攻撃者-他人の地位を低め、意義を唱え、集団や問題を攻撃する

・主唱者-発言権を握り、話し合いを進め、個人的見解をもち、権威を揮う

・支援者-理解や注意や受容の態度を見せ、技術的支援や対人関係の支援を与えて、協力的態度を示す

・中立者-他人の考えを受動的に受け入れ、グループ討論では聴衆の役割を果たす

~タスク・ロール~

・先導者-集団に課題を示し、目標と手順を定め、集団が集中を保って脱線しないようにし、重要性の高い議論と集団の意思決定を要約して、集団を先導する

・授与者-事実情報を提供し、疑問に答え、個別の考えについての信念と態度を明らかにし、個人的価値観と事実情報を表明する

・探求者-提案と情報、明確な説明を求め、効果的な集団意思決定を促す

・追随者-相互作用に積極的に参加せずに、耳を傾ける

===

・グループ・ロールとタスク・ロールは、集団行動の別個で相補的な側面であると見られている。

<集団内の正直シグナル>

無題

・無意識の社会的シグナリングのパターンを観察するだけで、その集団のダイナミクスについて多くのことが理解できる。(中略)言語と議論は大切ではあるものの、その重要性が驚くほど小さい場合もある。

・意識的な決定と議論の結果とされている集団行動の多くが、無意識のシグナリングと役割選択についての太古のパターンから発展したかもしれないのだ。

・集団の行動は投票に限りなく近いことが多い。最初に好意的な意見を最も多く集めた選択肢がたいてい勝利を収める(Hoffman1979;Mowday1981)。

・無意識の社会的回路網が集団の中で中心的役割を果たすことを裏付ける観察結果は、自由に意見を出し合うブレインストーミングのセッションの研究からも得られた。(中略)静かな集団は、メンバーに別々にブレインストーミングさせたときよりも生産性が高まらないのに対して、きわめて活発で積極的な集団の生産性は、一人ひとりのときよりも高い。これは、集団内の平均的な関心レベルが、集団の平均的な活動レベルと密接に結びついているかららしい。

・無意識の社会的回路網と集団の意思決定の結果に強いつながりがあることを見てきた。

○集団心理、と言いますが、良い方向に向けばこんなに力強いことはないと思います。その反面、恐ろしいことにも。そういうときは、言葉ってあまり影響を与えられないかもしれないですね。

<シグナリングの伝播>

・私たち人間は、新しい社会的状況に身を置くと、集団の態度をすぐに取り入れる傾向がある。(中略)社会的回路がどれほどすばやく、強力に、集団全体に態度を広めるかを理解するには、スタンリー・ミルグラムの実験(Tetlock2005)やフィル・ジンバルドーのスタンフォード監獄実験を思い出すだけでよい。

○2002年に公開された映画「es」。危険な映画です。

・社会的回路には、このように集団の態度に無意識に影響を与える力があるため、意図的にその作用を最小化するように会議を企画する場合もある。国際的貿易交渉のように、社会的シグナリングが妨げられる集まりは、社会的シグナリングが引き起こしうる無意識の社会的圧力をおおむね免れるかもしれないものの、進展が遅く、成果が上がらないことでも知られる。

○なるほど。ただ退屈なだけではないと。これは腹落ちします。国レベルで間違いがあると取り返しがつかないですからね。

<次のステップ>

・正直シグナルは、競争のさなかの個人の行動を調整するように進化した。ところが、集団のなかでは、競争が一対一で行われるとは限らない。異なる選択肢を支持する連合どうしの競い合いがあり、連合の顔ぶれは別の問題や新しい考えが出てくるたびに変わる。(中略)どうやら進化が、そうしたたえず変化する競争に対処できる仕組みを人間のシグナル-応答システムに与え、そのおかげで、役割に基づくシグナリングが、競い合う集団をまとめるのに役立っているようだ。

○「正直シグナル」は競争回避、若しくは落とし所を探る手段。言葉がない時代、そして動物は生きるために正直シグナルを使いこなしていた。深いです。

【第五章 ネットワーク・インテリジェンス】

<アイデア・マーケット-集団の力を活用する>

・社会的に下す集団の意思決定にまつわる特性でいちばん興味深いのは、有能な集団が潜在的には個々のメンバーより賢いことだ。

・100年以上前、ヴィクトリア朝のイギリスで、牧師トマス・ベイズは情報を結びつけるための数学理論を構築した。(中略)情報を結びつけるベイズの手法に基づいて作られた「アイデア・マーケット」は、人々の意見をまとめる効果的な方法だ(Kmbil2003;Chen,Fine,and Huberman2004)。アイデア・マーケットが投票と大きく違うのは、各自が一票を投じるのではなく、それぞれの行動方針にともなう見返りへの期待を表せる点だ。(中略)便宜上、こうした意見を「賭け(ベット)」と呼ぼう。つまるところ、見返りへの期待が込められているからだ。

・この意思決定方法は、提案された行動や目標を表す合図のほかには言語など必要としない。成功する行動方針を選ぶために、各自がそれぞれの行動案にどれほど関心を持っているかを集団にシグナルで伝えられ、そのあと、集団のシグナリングの総和を読み取れれば良い。

・この手法では、社会的ネットワークを読み取って意思決定し、予想を立てるので、私はそれを「ネットワーク・インテリジェンス」と呼ぶことにした。社会的ネットワークを読み取るプロセスでは、ネットワークの意思決定力を獲得するために、懸案をめぐって生じる社会的シグナリングを観察し、理解しさえすればよい。

○会議などでの無言の圧力というか、空気というか。確かに、皆読み取りますね。

<愚か者とうわさ話>

・残念ながら、このタイプの単純な集団意思決定のプロセスは、一部の問題にしか通用しない。さまざまなタイプの問題で、確実に個人より良い決定を下すには、注意深く回避しなければならない根本的な問題が二つある。愚か者とうわさ話だ。

・愚か者の問題を解決するのはたやすい。行動の結果を予測するのが下手な人々を見極めるだけでよい。

・うわさ話の問題ははるかに厄介だ。それぞれの情報は独自のものなので、ただ一度しか数えることはないとベイズは考えた。あいにく、人間が入手できる情報は共通の情報源にさかのぼるものが多く、私たちはその情報について討論し、互いの意見を方向づける。その為、人々の賭けパターンは似てしまう傾向がある。(中略)集団意思決定での失敗の根本的な原因は、どの情報が独自のものか、どの情報が社会的ネットワークによって流布されたコピーなのか、きちんと把握しそこなうことにある。その結果、情報が不適切に集計されてしまうのだ(Brown1986;Janis1972;Chen,Fine,and Huberman2003;Baron2005)。

・うわさ話の問題を処理するには、どのシグナリングが独自のもので、どれが「右に同じ」というコピーにすぎないのかを知る必要がある。

<ネットワーク・インテリジェンスの管理>

・シグナリングに基づいた実用的な意思決定プロセスを作り上げるには、信頼と共感の雰囲気を生み出し、ネットワークの読み取りを楽にする必要がある。

・社会的シグナリングのフィードバックは、チームのメンバーだけでなく管理者にも影響を与える。関心と関与と信頼のレベルが高いチームでは、管理者はどんどんチームに溶け込み、より民主的な運営をするようになることが研究からわかっている。当然ながら、このように平等主義が徹底しているチームほど成果があがる(Hackman2002;Reicher,Haslam,and Platow2007)。

○関心・関与・信頼のフィードバック。当前のことだけど、続けることが難しいことでもあります。「ありがとうの反対は当たり前」。

<無意識のインテリジェンス>

・初期の人間の集団は、高度な言語をもたなかったにもかかわらず、ネットワーク・インテリジェンスのメカニズムを使うこと、つまり社会的シグナリングを使ってアイデア・マーケットを生みだすことで、聡明な決定を下せたというのが、本書の主張だ。とはいえ、個々の人間についても、それと同じような説明の枠組みが求められる。私たちが筋道を立てて考える力は、あまりにも限られているように見えることが多く、聡明な決定を下せないように思える。

・アプ・ディクステルホイスらの報告は、無意識の思考は意識的思考よりも効果的な場合が多いことを示している(Dijksterhuis et al.2006)。

・実際、複雑な社会的相互作用というのは、無意識の思考が本領を発揮する領域なのかもしれない。

○最後は「直感」がものをいう?

<ネットワーク・インテリジェンスと個人の知性>

・ノーベル賞を受賞した心理学者のハーバート・サイモンは、直感(つまり、無意識の意思決定)は認識すること以上でもそれ以下でもないと述べている(Simon1995)。ある出来事がどれほど起こりそうかについて、私たちは定性的な見積りをするのが驚くほどうまい。

・個人の知性はおそらく神経回路を通した記憶の調整から生まれる。多数の個人の心を社会的回路を通して調整することでネットワーク・インテリジェンスが生まれるのとよく似ている。

○タマゴとニワトリの話のような。個人が先か集団が先か。

<個人の意思決定における最善策>

・無意識の意思決定の研究からわかった最も驚くべき点は、意思決定が論理とも合理的議論とも無縁であることだ。

・これまでの研究から得られた証拠をどう活かせば、意思決定がうまくなるのだろう?(中略)複雑な問題に取り組むときの最善の意思決定戦略は、情報発見に的を絞り、それから自分の心の無意識の部分に最善の選択肢を「認識させる」ことだ。

・意識的に熟慮しないで、問題を頭のなかで転がり回らせておこう。あらゆる要因に論理的な説明を探し求めず、かわりに、今抱えている問題とこれまでの経験とがぴったり一致しているのに気づく、ひらめきの瞬間を追い求めることだ。

○経験のなかに答えがある。経験学習。

【第六章 賢い組織】


<情報の流れをコントロールする>

・互いに注意を向けあっている人たちは、相手に合わせて活動を調整する傾向があり(これを影響力と測定できる)、互いに関心を抱く人たちは、時間を多く割いて話し合う(活動レベルとして測定できる)。結果として、いっしょに働く人たちは、廊下で立ち止まって話したり、昼食に出かけたり、コーヒーを取りに行ったり、お酒を飲みに出たりなどして、互いのコミュニケーション・パターンに影響を与え合う傾向にある。互いに相手を避けている人たちでさえ、活動を調整するけれど、それは廊下で顔を合わせたり昼食で同席したりしないようにするためだ。

<分散型回路>

・社会的シグナリングというのは、もともと双方向のプロセスなので、メモやメールには、対面のコミュニケーションと同じようなはたらきはどうしてもできない。メールを送ったり、メモを書いたりすると、受け取る側が意思決定から締め出されているように感じやすいのは、社会的シグナリングのような双方向のかかわり方をしそこなっているからだ(Hackman2002;Reicher,Haslam,and Platow2007)。(中略)対面のコミュニケーションは双方向で、メッセージを発した人にも受け取る人にも変化をもたらすからだ。

○メールの恐ろしさはここにあると思います。対面で話していれば気にならないことも、メールでは失礼に感じてしまう場合とか。子どもや女性が絵文字などを使うのは、そういうものを補う面もあるのかもしれませんね。

<次のステップ>

・正直シグナルを使って、コミュニケーションを図り、情報の発見と統合をコントロールし、意思決定をするのだ。正直な社会的シグナルは人間のほとんどすべての相互作用に欠かせない役割を担うので、組織が成功を収めるには、人間の社会的回路網の自然なパターンに逆らったり、そのパターンを無視したりしようとするのでなく、それらを強化するべきだろう。

【第七章 賢い社会】

<知性の社会的な構造>

・ソシオメーターによって、個人がたんに意識的に相互作用し合っているだけではないことが明らかになる。ソシオメーターは、私たちの心が、私たちを取り巻く社会的な構造の中で起こる無意識のシグナリングにもかなり支配されていることを示している。

<新しい「知性」概念の創出>

・私たちの実験によると、人間の社会的シグナリング装置が個人から案を引き出して処理し、やがて案の一つが集団の決定として選ばれるようだ。この種の集団での意思決定は、三段論法と論理と議論というよりは、むしろ市場原理に基づいていて、リスクを最小に、報酬を最大にするとその集団がみなす行動を選ぶために、社会的シグナリングを使う。(中略)このタイプのネットワーク・インテリジェンスは、的確さの点で、個人として最高の知性にさえも優りうる。

<まとめ>

・私たちはさまざまな設定のもとで何度も検証を重ね、人間の行動の多くが、生物学的仕組みに根差す正直シグナルからかなり正確に予測できることを発見した。

・私たちは、ソシオメーターによって、人間の集団や企業、さらには社会全体を理解して運営するための、新しい強力な手段を手に入れた。

・こうした新しいデバイスは、ジョージ・オーウェルの描いた「すべてを管理する国家」を現実のものとする危険も孕んでいる。この新たな力は、扱い方しだいで人類の救済にも破滅にもつながるのかもしれない。(中略)個人のプライバシーをしっかり保護することが、この新しい社会システムの成功のカギを握ることになるだろう。

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